カテゴリー「その他の動物」の7件の記事

2010年12月17日 (金)

ハイイロチビフサヤスデ(その2:集団越冬)(Eudigraphis takakuwai kinutensis

 今年の1月に、ハイイロチビフサヤスデEudigraphis takakuwai kinutensis、或いは、Eudigraphis kinutensis.「チビ」を取ったハイイロフサヤスデと呼ぶこともある)と云う余り知られていないヤスデの1種を紹介しました。
 この時は、ケヤキとプラタナスの樹皮下に居た越冬中の個体を1頭ずつ見付けただけです。ところが、先日(11月18日)、とあるケヤキの樹の皮を剥がしたところ、1枚の樹皮片の下に70頭以上が大きく2個所に分かれて集団越冬していました。
 このフサヤスデは全国的には珍しい種類の様ですし、集団越冬していると云う話は聞いたことがありません。そこで、重複掲載にはなりますが、もう一度、ハイイロチビフサヤスデを掲載することにしました。

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ケヤキの樹皮下で集団越冬中のハイイロチビフサヤスデ
中央右端近くにトビムシの1種が写っている
(写真クリックで拡大表示)
(2010/11/18)

 「ヤスデ」と名のある通り、多足亜門のヤスデ綱フサヤスデ亜綱(触顎亜綱:Pselaphognatha)に属しています。しかし、御覧の通りとてもヤスデとは思えない独特な外観をしています。フサヤスデ亜綱は、たったの2科3属3種+2亜種(「多足類読本」では5種)しか居ない非常に小さなグループです。
 フサヤスデ類についての詳細や、写真のフサヤスデをハイイロチビフサヤスデと判断した根拠については、1月に掲載した記事を参照して下さい。なおここでは、ハイイロチビフサヤスデはフサヤスデ科(Polyxenidae)ニホンフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai)の亜種(kinutensis)としていますが、亜種から種に昇格させて学名をEudigraphis kinutensisとすることもあります(此方の方が新しい分類なのかも知れません)。
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同じ樹皮片下で別の位置にかたまるハイイロチビフサヤスデ
この2枚の写真に写っていない個体もかなり居た
(写真クリックで拡大表示)
(2010/11/18)

 ウスアカフサヤスデが集団越冬している写真はWeb上で屡々見かけます。しかし、ハイイロチビフサヤスデに関しては、集団越冬をすると云うことすら知られていないのではないでしょうか(これは素人の推測に過ぎません)。
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最初の写真の中央やや左下の部分.虫は少し動いている
(写真クリックで拡大表示)
(2010/11/18)

 実は、これまで主に使用していたマクロレンズが10月の16日に故障した為、それ以降は別のカメラとレンズを使用しています。こちらのカメラの方が画素数が多く、横幅のピクセル数は1.2倍になります。
 今日の写真もこの新しい方のシステムで撮影しています。ピクセル数が1.2倍になっても、CCDの大きさは同じですから、ピクセル等倍にした時の拡大率は以前のカメラよりも1.2倍大きくなります。
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上の写真の直ぐ下だが、虫が動いているので
最初の写真とは虫の配置が違っている
(写真クリックで拡大表示)
(2010/11/18)

 最初2枚の全体像以外の写真は、拡大するとピクセル等倍かそれに近い倍率です。以前に掲載したハイイロチビフサヤスデよりかなり大きい感じがしますが、スケールと比較すると(長い針状の毛の束=尾毛叢を除く)、1枚目の拡大写真で左下の個体が約2.1mm、2枚目の少し曲がった左下の個体で約2.2mmです。
 1月に掲載した写真では、1.7~2.2mmでしたから、殆ど差はありません。高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」(1950,Acta Arachnol.,12:21-26)に書かれているニホンフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai)の3亜種(或いは3種)の体長は、ウスアカフサヤスデが4~4.5mm、イソフサヤスデが3~3.5mm、ハイイロチビフサヤスデでは2.5~3mmです。この論文の「体長」に尾毛叢が含まれているのか記述がありませんが、本文中にハイイロチビフサヤスデは「成体では尾毛叢を除き体長約2.5mm」とあるので、ハイイロチビフサヤスデとしても少し小さめで、他の2亜種と較べるとずっと小さいと言えます
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最初の写真の下、枠外の部分
(写真クリックで拡大表示)
(2010/11/18)

 上述の論文には「本亜種は東京都世田谷区大蔵町即ち以前の砧村(Kinuta)で獲られたので(中略)同地から既に100頭近くの個体を採っているが他産地のに此の亜種に該当するものが見当たらないのは妙である」とあります。大蔵町は現在の世田谷区大蔵で、このWeblogの写真を撮っている成城の隣町です。このハイイロチビフサヤスデが全国的にどう分布するのか良く分からないのですが、どうも関東地方に限られる様です。「日本のレッドデ-タ検索システム」に拠ると、現時点では千葉県と栃木県では絶滅危惧Ⅰ類に入っています。
 そこで思うのですが、このハイイロチビフサヤスデ、ヒョッとするとアオマツムシウスグモスズの様な外来種で、何処かの国から東京、或いは、横浜の港へ運ばれ、その後関東各地に広がったのではないでしょうか。ウスグモスズは外来種とは言うものの、原産地は不明と云う奇妙な虫です。このハイイロチビフサヤスデも同じ様な立場にあるのかも知れません。
 この説には、他に根拠はありません。単なる素人の憶測に過ぎませんので、あしからず。

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2010年11月23日 (火)

ハモリダニ科の1種(Anystidae gen. sp.)

 今日は一寸変わった生き物を紹介します。と言っても大したものではありません。葉の上を忙しく走り回っているのをよく見かける、体長1mm程度の赤い真丸いダニです。
 ダニと言うと、ハダニとか吸血性ダニなどを思いだして、余りよい印象はありません。しかし、この赤いダニ、ハモリダニ(葉守ダニ)と呼ばれる捕食性のダニで、ハダニ(例えばこちら)やアブラムシ等の「害虫」を退治してくれる「益虫」です。

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ヤツデの葉裏をこちら側に突進してきたハモリダニの1種
写真が鮮明でないので、何処に眼があるのか分からない
(写真クリックでピクセル等倍)
(2010/11/18)

 小さい上に厚みがあり、しかも矢鱈に速い速度で走り回るので、中々良い写真が撮れません。しかし、上の写真の様に何とか使える写真が偶然撮れることもあります。ヘタな鉄砲何とやら、と云うヤツです。これはヤツデの葉裏を葉脈に沿って走って来たところです。
 2枚目以降は、アブラムシを補食している最中だったので動きはありませんでした。しかし、等倍を越えて撮影する(超接写)機材を持って行かなかったので、余り精緻な写真を撮ることが出来ませんでした。
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アブラムシを補食中のハモリダニの1種
クモに近いだけあって、よく似ている
(写真クリックでピクセル等倍)
(2010/11/18)

 成城から喜多見に抜ける不動坂を下り、小田急線のガードをくぐった辺りに植えてあるモクレンの葉裏に居ました。
 アブラムシの種類は良く分かりませんが、マダラアブラムシ亜科(Drepanosiphinae)の1種だと思います。全農教の「日本原色アブラムシ図鑑」を見ると、モクレンに付くマダラアブラムシの仲間としてモクレンヒゲナガマダラアブラムシが挙げられていますが、これとは一寸違う様です。
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丸い体に白っぽい剛毛が目立つ
(写真クリックでピクセル等倍)
(2010/11/18)

 芝実教授(松山東雲短期大学:現名誉教授)の「日本のハモリダニ科Anystidae」(一般講演、第14回日本ダニ学会大会講演要旨[2006年])に拠ると、日本産ハモリダニ科には、ハモリダニ(Anystis baccarum)、キイロハモリダニ(A. salicinus)、エゾハモリダニ(Tencatei toxopei)、イエハモリダニ(Chaussieria domesticus)の3属4種が知られており、イエハモリダニ以外は植物上に生息し捕食性だそうです。また、他に小笠原諸島と関西以西に、それぞれ新種と思われる未記載種が居るとのことです。
 従って、写真のハモリダニは最初の3種の何れかと云うことになります。
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オマケにもう1枚
(写真クリックでピクセル等倍)
(2010/11/18)

 この3種のハモリダニの区別については、全く情報が得られませんでした。そこで、今日の題目は「ハモリダニ科の1種(Anystidae gen. sp.)」としておきました。「gen. sp.」とは属も種も不詳と云う意味です。

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2010年3月23日 (火)

ヒトフシムカデ属の1種(Monotarsobius sp.

 大木の樹皮下で越冬しているのは、昆虫やクモだけではありません。樹の低い位置にある樹皮を剥がすと、時々極く小さなムカデを見付けることがあります。今日は、その微小なムカデを紹介することにしましょう。場所は、先日のヒゲブトハムシダマシと同じ七丁目の藪です。
 体長は約10.5mm、ケヤキの樹皮片の方にくっ付いていました。

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ケヤキの樹皮下に居たヒトフシムカデ属の1種
見付けたときの状態.頭を曲げている
赤い粒々はダニの1種であろう
体長は約10.5mmと小さい
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 日本産ムカデ綱(唇脚綱)にはゲジ、イシムカデ、オオムカデ、ジムカデの4目があります。これらの目は、成体の歩脚数やその形態で簡単に区別することが出来ます。ゲジは非常に細長い15対の歩脚を持ちます。イシムカデも15対ですが、歩脚の長さは普通です。オオムカデは21対か23対、ジムカデには31対以上(日本産)の歩脚があります。ゲジとイシムカデは、幼体では体節数が少なく、脱皮により体節数が増加し、これに伴い歩脚数も増加しますから注意が必要です。しかし、ある段階から脱皮しても体節数は変わらなくなります(半増節変態)。一方、オオムカデとジムカデは幼体から体節数は一定しており、脱皮しても体が大きくなるだけです(整形変態)。
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体を伸ばしたヒトフシムカデ
胴部の第2,4,6,9,
11,13節は極く短い
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 写真のムカデを見ると、普通の長さの歩脚が15対ありますからイシムカデ目に属します。イシムカデ目では、第2,4,6,9,11,13有肢胴節(多足類の体節は頭部と胴部の2つに分けられます)の背板が、他の節よりも短くなる特徴があります。写真のムカデでは、これらの節は極端に短くなっており、拡大しないとその存在が分からない程です。
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上の写真の部分拡大.触角は19節
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 日本産イシムカデ目は、トゲイシムカデ科、イッスンムカデ科、イシムカデ科の3科から構成されます。東海大学出版会の「日本産土壌動物」の科・属への検索表に拠ると、トゲイシムカデ科の歩脚各節には棘(武装棘)が無いそうで、写真のムカデの歩脚には明らかに棘があります(5番目の写真)から、先ずこの科は除外されます。イッスンムカデ科は、検索表では判断出来ませんが、解説を読むと「単眼が約20以上集まっている」と書かれています。写真のムカデの単眼は数個しか無い様に見えます(下の写真)から、これも除外されます。従って、写真のムカデは、イシムカデ科(Lithobiidae)となります。
 日本産イシムカデ科についての研究は、余り進んでいない様です。世界的には数10属以上あると推定されているそうですが、日本産で確実なのは、イシムカデ属とヒトフシムカデ属の2属のみです。検索表に拠れば、第1~13歩脚の付節が2節であればイシムカデ属、1節であればヒトフシムカデ属となります。
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眼は数個の大きさの異なる単眼からなる
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 ムカデ類の歩脚は、基節、転節、前腿節、後腿節、脛節、付節からなります。腿節が前後2節ある点が昆虫とは異なっています。写真を見ると、太くて短い基節、細くてやはり短い転節に続き、やや不明瞭ですが太い腿節が2節あり、そこから急に細長くなって、脛節と少し色の異なる付節がそれぞれ1節づつあります(下の写真)。付節が1節ですから、ヒトフシムカデ属(Monotarsobius)と相成ります。
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歩脚の付節は1節のみからなる
歩脚には細かい棘が沢山ある
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 「日本産土壌動物」のヒトフシムカデ属の解説を読むと、「小さなイシムカデ類のグループで、体色は淡褐色のものが多く、体長10mm以下が多い.触角小節数20個以下.眼には数個の単眼が1列か2列に並ぶ.全国に分布し、特に北方に多く土壌中に生息している.代表的な種はホルストヒトフシムカデM. holstii (Pocock)、ダイダイヒトフシムカデM. elegans Shinoharaがある」と書かれています。
 写真のムカデの体長は約10.5mm、触角は19節(3番目の写真)、単眼は数個(4番目の写真)です。体長は10mmを超えていますが、記述では「体長10mm以下が多い」ですから、記述と一致しているとして問題無いでしょう。種は分かりませんので、Monotarsobius sp.としておきます。
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おまけにもう1枚
(写真クリックで拡大表示)
(2010/03/11)

 今回、触角や眼、歩脚等の細かな写真をチャンと撮ってあったのは、実は、先日もう一方のWeblogでイシムカデを掲載した際、これらの構造が検索時に問題になることを知ったからです。その時は、どうしても歩脚の付節数が写真から判断出来ず、ヒトフシムカデ属か否かを決められませんでした。今回は、その経験を生かすことが出来、何とか属まで落とすことが出来ました。
 この我が家の庭にいた方のイシムカデは、今日のヒトフシムカデよりもかなり可愛い感じがします。興味のある読者諸氏はこちらをどうぞ。

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2010年1月28日 (木)

ハイイロチビフサヤスデ

 今日はフサヤスデと云う一寸変わった生き物を紹介します。
 フサヤスデと言っても御存じない方が大多数だと思います。「ヤスデ」と付く通り、多足亜門のヤスデ綱に属しますが、とてもヤスデとは思えない非常に独特な外観をしています。ヤスデ綱(倍脚綱)にはフサヤスデ亜綱(触顎亜綱)と唇顎亜綱があり(タマヤスデ類を別の亜綱とすることもある)、普通のヤスデは全て唇顎亜綱に属します。日本産ヤスデには、300以上の種類があるとのことですが、東海大学出版の「日本産土壌動物」に拠れば、フサヤスデ亜綱にはたったの2科3属3種+2亜種(「多足類読本」では5種)しか居ません。非常に小さなグループです。

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ケヤキの樹皮下にいたハイイロチビフサヤスデ
体を少し丸めているので、長さは1.7mm
周りに沢山居るのはトビムシの1種
拡大してピクセル等倍、以下同じ
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 「四丁目緑地」に植えられているケヤキの樹皮下に居ました。見付けたときは、上の写真の様に体を少し丸めていたので、長さは1.7mmしかありませんでした。樹皮をめくる時は、非常に小さかったり保護色で見分けの付き難い虫が居ることもあるので、細かい作業用の+3の老眼鏡をかけて、よ~く見るのですが、その強老眼鏡の補助があっても横筋があること以外は良く見えず、始めはワラジムシの幼体かと思いました。撮った写真を拡大再生して、漸く「変な虫」であることに気が付きました。
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ストロボの光に驚いて歩き回るハイイロチビフサヤスデ
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 以前に多足類の本を読んだことがあるせいか、形に見覚えはあるのですが、正体が何であったか思い出せません。しかし、家に帰り、調べ始めて10秒でフサヤスデの1種であることが分かりました。
 フサヤスデは、普通のヤスデとは異なって外骨格にキチン質を殆ど含まず、柔らかい体をしています。その代わり、体表には剛毛が密生し、尾端には長い針状の毛の束(尾毛叢)があります。この尾毛には逆さ向きの棘があり、アリなどに襲われると、この尾毛を叩き付けて身を守るとのことです。
 ヤスデの多くは、刺激を加えると頭を中心にして丸くなります。しかし、このフサヤスデは体を丸めることが出来ません。また、ヤスデは敵に襲われると防御液を分泌することが知られていますが、フサヤスデは、ツムギヤスデやネッタイタマヤスデなどと同様、この防御手段を持ちません。
 ヤスデの多くは腐植質や菌類を食べます。中には肉食性の種類もあるそうですが、フサヤスデの食性については手元の文献には何も書かれていませんでした。しかし、「虫ナビ」と云うサイトに拠ると、このフサヤスデは「生物の死骸などを食べているよう」と書かれています。写真の周囲にはトビムシの1種が沢山写っていますが、その脱皮殻などを食べているのかも知れません(捕食性の可能性もあるかも?)。
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頭部の下に触角が見える.眼らしきものも微かに認められる
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 さて、この写真のフサヤスデ、3種(或いは5種)しか居ない中で、種類は一体何でしょうか。
 「日本産土壌動物」に拠ると、フサヤスデには、眼のあるフサヤスデ科(Polyxenidae)と、沖縄以南に生息する眼のないリュウキュウフサヤスデ科の2科があります。リュウキュウフサヤスデ科は、分布から明らかに除外されます。
 フサヤスデ科は、胴節背面の剛毛の列が左右に分かれるニホンフサヤスデ属(Eudigraphis)と、左右で分かれないシノハラフサヤスデ属(Polyzenus)の2属から構成されます。写真のフサヤスデは背面の剛毛が左右に分かれているのでニホンフサヤスデ属に属すことになります。
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横から見た歩行中のハイイロチビフサヤスデ.体長2.0mm
歩脚は青(青紫?)みがかった色をしている
尾毛叢が白いのはストロボの反射
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 全部で3属3種しか居ないのですから、ニホンフサヤスデ属には1種しかなく、種としてはニホンフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai)になります。
 ところが、この種には3つの亜種があり、基亜種のウスアカフサヤスデ(E. takakuwai takakuwai)、イソフサヤスデ(E. takakuwai nigricans)、ハイイロチビフサヤスデ(ハイイロフサヤスデ:E. takakuwai kinutensis)と、それぞれ別の和名が付けられています(なお、これらの3亜種をそれぞれ独立の種とすることもあります。その場合の学名は亜種名が種名に昇格され、それぞれ、E. takakuwaiE. nigricansE. kinutensisとなります)。
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同じく横から見た歩行中のハイイロチビフサヤスデ
歩脚はやはり青みがかった色をしている
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 この3者の違いは、高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」(1950,Acta Arachnol.,12:21-26)に書かれています(この論文はWeb上からダウンロード出来ます)。見易くして引用すると次の様になります。

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          ウスアカフサヤスデ    イソフサヤスデ   ハイイロチビフサヤスデ

   体  長    4~4.5mm     3~3.5mm     2.5~3mm

   背板の色    淡 黄 褐 色      淡 黄 色       黄 褐 色

   頭部背面    淡黄褐色で頭部      黒紫色で頭部      黄褐色で前方は
   及び触角    背面に光沢あり     背面に光沢有り     灰褐色.頭部背面
                                    に光沢がない

  腹面及び歩脚   淡 黄 褐 色      淡 黄 色       淡 紫 色

   背面 及び  淡褐色でイソフサより    黄褐色でウスアカ      灰褐色で短く
   側面の剛毛   も長く且つ湾曲する   より短く且つそれ程    殆ど湾曲しない
                        湾曲しない

   背面の斑紋     赤 褐 色       黒 紫 色       灰 褐 色

   尾 毛 叢      白 色         黒 色         灰 色

   尾毛叢中      3~4       3~6(5が多く    3~4(稀に5)
   の逆鉤数                  稀に6)
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背板の色はやや褐色を帯びた灰色に見える
尾毛叢はやや褐色を帯びた灰色
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 このフサヤスデの体長は、尾端の毛の束(尾毛叢)を入れないで、約2.0mm。上の表の「体長」にこの尾毛叢が含まれているのかは記載がありませんが、本文中のハイイロチビフサヤスデの記述に「成体では尾毛叢を除き体長約2.5mm」とあるので、ハイイロチビフサヤスデとしても、かなり小さいと言えます。まだ、幼体なのでしょうか。
 「多足類読本」に拠ると、フサヤスデの変態様式は、半増節変態と呼ばれる方式です。始めは脱皮に伴い体節数が増加しますが、ある時点でその増加は止まり、以降は脱皮をしても体節は増えません。しかし、脱皮の回数に制限はないとのことです。
 フサヤスデ類の成体、亜成体では、種に拘わらず胴節数(頭部以外の体節の数)は11、歩肢は13対です。写真から体節数を見極めるのは一寸難しいですが、松本&蒲生「相模湾沿岸に見られるフサヤスデ類2種」と云う論文を見ると、ウスアカフサヤスデの亜成体の図と一致するだけの剛毛列があります。従って、幼体ではなく、亜成体か成体(体の構造は同じ)と云うことになります。それ以降に脱皮して体長が増えるのか否かは良く分かりませんが、体長からはウスアカやイソよりずっと小さく、ハイイロチビの可能性が高いと言えます。
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背側から見た歩行中のハイイロチビフサヤスデ
尾毛叢はやはりやや褐色を帯びた灰色
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 背板の色は、写真ではやや褐色を帯びた灰色に見えます。先の表では何れも黄色~黄褐色で、写真とは大部違います。写真の色はRAWファイルを現像するときの条件で変化しますが、この写真を現像したときの条件は何時もと同じですし、周囲の樹皮の色も色カブリする程偏っては居ないので、ほぼ実際通りの色を出していると思います。背板の色に関しては該当するものがない、と云うことになります。
 「頭部背面及び触角」の色は、写真からは良く分かりません。頭部背面は剛毛に隠れて見えません。触角は小さくて色が今一つハッキリしませんが、横から撮った3番目や4番目の写真を見ると、赤褐色をしている様にも思えます。これも、表の何れとも一致しません。
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前から見たハイイロチビフサヤスデ
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 「腹面及び歩脚」はどうかと言うと、腹面は見えませんが、歩脚は多少青みがかった色をしています。この点では、ハイイロチビでは淡紫色となっていますから、かなり近いと言えます。
 「背面及び側面の剛毛」に関しては、写真を見ると褐色を帯びた灰色をしており、余り長くなく少し曲がっています。前述の、高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」には3亜種のかなり大きな全体図が載っており、ハイイロチビの剛毛は、写真とほぼ同じ長さ(体長との比率)ですが、、真っ直ぐで殆ど曲がっていません。この曲りの点では写真のフサヤスデはイソに一番よく似ています。  「背面の斑紋」と云うのは良く分からないのですが、横から見たとき剛毛の間に見える斑紋のことではないでしょうか。それならば、黒っぽい良く分からない色をしています。この点ではイソに近いと言えます。
 尾毛叢の色は、写真によっては白く光っていますが、これはストロボの反射の為で、6番目や7番目の写真では、剛毛とほぼ同じやや褐色を帯びた灰色をしています。ハイイロチビでは灰色となっていますから、これに近いと言えます。イソは黒ですから、明らかに異なります。
 最後の「尾毛叢中の逆鉤数」とは、尾毛1本当たりの逆向きの棘の数です。顕微鏡で観察しないと分からない形質ですから、此処で議論することは不可能です。
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歩行中のハイイロチビフサヤスデ.やや後から
尾毛叢が白く光っているのはストロボの反射
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/18)

 他に問題になるのは産地です。松本&蒲生「相模湾沿岸に見られるフサヤスデ類2種」に拠れば、イソは仙台湾以南の太平洋岸の岩の割れ目などに潜んでおり、内陸での記録は無い様です。これに対し、ウスアカは南関東以西の太平洋岸の海岸付近から内陸にかけて分布し、「4~9月頃は地上の落葉の下、植物の葉上等にいるが、10月から翌年6月頃までは常に樹皮下、樹木の根元の部分の幹の間度に多数集まって棲息する(夏期でも樹皮下に認められることもある)」(高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」からの引用)とのことです。
 問題はハイイロチビです。この亜種は高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」に拠ると、「・・・樹皮下に見受けられ1年中見つけることが出来る。地上では未だに採ったことがない。年2回産卵するのか周年大小の幼生及び成体が認められる」とあり、更に重大なことには「本亜種は東京都世田谷区大蔵町即ち以前の砧村(Kinuta)で獲られたので(中略)同地から既に100頭近くの個体を採っているが他産地のに此の亜種に該当するものが見当たらないのは妙である」と書かれています。
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成城6丁目のプラタナスの樹皮下にいたフサヤスデ.体長2.2mm
黄褐色を帯びているのは色カブリで本来は灰色に近いと思われる
ISO400で撮影した為、解像度がやや低い
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/21)

 読者の中にはお気付きの方も居られると思いますが、大蔵町(今は大蔵)はこのWeblogの撮影場所である成城の隣町です。採集されたのは大蔵のどの当たりか分かりませんが、直線距離にして2~3kmしか離れていないでしょう。この辺りが産地なのであれば、この写真のフサヤスデがハイイロチビフサヤスデであってもおかしくありません。
 実は、上の写真を撮った3日後、また同じ様なフサヤスデを見付けたのです。6丁目の成城学園高校の前に並木として植えられている大きなプラタナスの樹皮下に居ました(上と下の2枚の写真)。黄色い樹皮のため色カブリを起こしていますが、剛毛の色は「四丁目緑地」で撮影した個体と同じだと思います。体長も約2.2mmで、ほぼ同じです。
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上の写真と同じ個体(オマケの1枚)
(写真クリックで拡大表示)
(2010/01/21)

 これらを総合すると、幾つか一致しない点もありますが、大きさ、背面及び側面の剛毛の色、歩脚の色、尾毛叢の色、産地等から、このフサヤスデはハイイロチビフサヤスデ(ハイイロフサヤスデ:E. takakuwai kinutensis)とするのが一番順当ではないかと思います(素人としては、未記載種の可能性については触れません)。
 なお、この亜種(種)は千葉県と栃木県で絶滅危惧1類に指定されています(「世田谷区大蔵町」以外からも記録があることになります)。東京都のリストでは、無脊椎動物は軟体動物しか載っておらず、節足動物に関する情報はありません。
 今日は一寸珍しい生き物なので、随分張り切って書いてしまいました。写真も11枚載せました。Web上にハイイロチビフサヤスデの写真は無い様ですから、同じ様なものでも沢山出すことにしました。

[追記]:同じ年の11月にこのハイイロチビフサヤスデが集団越冬しているところを見つけ、「ハイイロチビフサヤスデ(その2:集団越冬)」の表題で12月17日に掲載しました。興味ある読者諸氏は此方を御覧下さい。(2010/12/17)

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2008年9月 3日 (水)

キセルガイの1種

 今日は時間がないので、写真1枚だけの「キセルガイの1種」を紹介します。
 「七丁目緑地」に生えている大きな樹(種類は忘れました)の1.5m位の高さに居ました。長さは2cm程ありこの辺りでは滅多に見ることのない大きさなのと、樹上に居るのは珍しいと思ったので、写真を撮りました。1枚しかないのは、位置が高く、また、樹皮の窪みに居たので、他の方向から撮ることが出来なかったからです。
 キセルガイは陸産貝類ですが、カタツムリとは異なり縦に細長い巻貝です。眼に触れる機会は少ないかも知れませんが、土の上に直接置いた植木鉢などを動かすと、その下によく居ます。眼に触れない割りには種類が多く、日本だけでも200種位が棲息しています。但し、移動性が弱いので、分布の狭い種類が大半の様です。

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樹皮の窪みに居たキセルガイの1種
(クリックで拡大表示)
(2008/07/20)

 キセルガイを見分けるには貝殻の口の部分が重要で、写真では殆ど見えませんから、種類は調べようがありません。ナミギセルと言うかなり大型の種類がこの辺りにも居るらしいので、それかも知れませんが、確証がありません。
 些か無責任ですが、樹上にこんな大きなキセルガイが居るのは始めて見たので、敢えて掲載した次第です。
 なお、貝の右側の樹皮にハエの1種が留まっています。また、貝殻の先端の裏に何か正体不明の虫が居ます。或いは、寄生性の昆虫かも知れません。

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2008年8月23日 (土)

ウスカワマイマイ

 今日は一寸サボって、この5月に「四丁目緑地」で撮影したカタツムリを紹介します。何がサボリかと言うと、写真の枚数が少ないのです。
 オナジマイマイ科のウスカワマイマイ、同じくオナジマイマイ科に属すミスジマイマイ等のでんでん虫とは違って、殻高のあるカタツムリです。また、多くのカタツムリとは異なり、殻の巻く方向に筋が全く無く、全体が斑模様になっています。

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ウスカワマイマイ.殻径約2cm、殻高がある
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/05/22)

 大きさは直径(殻径)2cm位、殻の背が高くてこんなに大きなカタツムリは昔は居なかった様に思いますが、調べてみると、外来種でもなく、特に最近分布を拡大したと言う訳でもない様です。
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殻の巻く方向に筋が無く全体的に斑模様(2008/05/22)

 ウスカワマイマイは乾燥に強く、人工的環境を好むそうで、森林中には棲息しないと言われています。見付けたのは、先日掲載したヨコヅナサシガメが居たケヤキの樹です。周りには大きな樹もなく、公園の中に1本だけ植わっていますから、かなり乾燥した場所だと言えます。
 最近になって目に付く様になったのは、或いは、大きな樹の植わった御屋敷が殆ど無くなり、町全体が以前より乾燥して来たのかも知れません。
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ウスカワ(薄皮)マイマイと言う位で殻は脆弱
殻の欠けた跡が見える(2008/05/22)

 昨日、「四丁目緑地」に偵察に行ったところ、草が全部キレイに刈られていました。そこで「三丁目緑地」はどうかと思い行ってみると、丁度中段にある空地の草を草刈り機で刈っているところでした。虫の写真はまだかなり手持ちがありますが、9月は虫探しに苦労するかも知れません。  

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2008年7月11日 (金)

ミスジマイマイ

 ここ数日、新たな写真を撮りに出かけていますが、まだ、掲載に必要な調整が出来ていません。そこで、5月に「四丁目緑地」で撮ったカタツムリを紹介しておきます。
 今気が付きましたが、このWeblogで昆虫、鳥、クモ以外の動物を掲載するのはこれが初めてです。一寸意外でした。

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ミスジマイマイ.しかし、この個体には2筋しかない
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/05/22)

 陸生貝類の図鑑は一応持っていますが、ハッキリ申し上げて、カタツムリは見ても殆ど分かりません。しかし、この辺り(東京都世田谷区)に棲息する大型のカタツムリは、ヒダリマキマイマイとミスジマイマイの2種に限られる様ですから、これはミスジマイマイでしょう。ヒダリマキマイマイは「左巻」ですから、明らかに該当しません。この個体は殻径が3cmを超えていました。
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横から臍の部分を見る(2008/05/22)

 マイマイ類では殻の筋(色帯)が出る場所が決まっており、上側から1~4の番号が付いています。ミスジマイマイは変異が大きく、4本全部ある個体(1234型)もいますが、1番目の筋を欠く3本(0234型)のが一番多いのでミスジマイマイと名付けられたとのこと。
 写真の個体では、1と3が無く、2と4(上の写真で一番下に見えている黒い部分)しか残っていません(0204型)。筋よりも、まだら模様の方が目立っています。こう言う斑があって筋の少ないミスジマイマイは、この辺り(東京都世田谷区)では普通らしく、時々見かけるカタツムリにはこのタイプがよくいます。
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貝殻の口の部分(2008/05/22)

 一寸くどい表現をしましたが、最近はカタツムリが著しく減少して、見る機会が余りありません。この写真を撮ったのも、カタツムリが珍しくなったからです。似たような生き物であるナメクジは幾らでもいるのですが・・・。
 Internetで調べてみると、カタツムリの減少は全国的に起こっている現象の様です。色々な要因が指摘されていますが、ナメクジは減らずに、何故カタツムリだけ減少するのか良く分かりません。。

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