カテゴリー「昆虫(その他)」の27件の記事

2011年3月 8日 (火)

ツチトビムシ亜科の1種(Isotominae gen. sp.


 漸く暖かくなってきたかと喜んでいたのですが、昨日は9時少し前から雪となり、昼頃までに結構積もりました。しかし、所詮春の淡雪、夕方には殆ど消えてしまいました。

 今日は、昨年の今頃に撮ったトビムシの1種を紹介します。七丁目に大きな樹の繁った区画があり、其処に生えている大きなムクノキの樹皮下で越冬していました。


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ムクノキの樹皮下で越冬しているツチトビムシの1種

根元の部分に、非常に沢山生息していた

保護色で分かり難いので、明度と

コントラストを少し上げている

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/11)



 根元に近い部分の樹皮を剥がすと、何処の部分でも夥しい数が見られました。しかし、他の場所では、見た記憶のないトビムシです。

 体長は2mm程度、特に大きな個体(下の写真)では約2.3mmでした。トビムシは変態をしませんから、外見は殆ど同じでも、体長が半分位の小さな個体も居ます。

 体節が同じ様な間隔で並んでいるので、昆虫よりは、甲殻類に近いと云う感じがします。実際、最近ではトビムシは昆虫綱には入れず、コムシやカマアシムシと共に、六脚上綱内顎綱とするのが主流です(拙Weblogでは、便宜上「昆虫」に入れています)。

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大型の個体、体長は2.3mm.胸部第1節は見えず

胸部第2節と3節が膨らんで大きい

後続の腹節は丸くなくやや短い

絞り過ぎて解像度が高くない

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/11)



 トビムシの種類を調べるのは中々厄介です。小さくて細部がよく分からない上に、背面からは見えない跳躍器の構造が問題になるからです。しかし、北隆館の大圖鑑を見ると、アヤトビムシ上科(Entomobryomorpha)に属すのは間違いないと思います。

 アヤトビムシ上科の特徴は、分離した体節を持ち、胸部第1節が退化して背板を持たないことです。下の写真を見ると、頭と胸部の間から前脚が出ている様に見えます。これは胸部第1節が背側から見えないことによると考えられます。

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前脚は頭部と胸部の間(胸部第1節)から出ている

胸部第1節は背板を欠くので背側からは見えない

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/11)



 胸部第1節は背面からは見えないのですから、背側から見て頭部に続くのは胸部第2節、次が第3節で、以降は腹節になります。胸部の2節はやや丸くて大きく、第1腹節はやや短く、以降の2~4節はほぼ同じ長さに見えます。なお、大圖鑑の解説に拠ると、トビムシの「腹節はわずか6節で他の昆虫に比べ最も少ない」とのことです。


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別個体.昆虫と云うよりは甲殻類的

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/11)



 さて、こう云う毛の長いトビムシは、アヤトビムシ科に多い様に思いますが、大圖鑑の検索表に拠ると、アヤトビムシ科では腹部第4節は第3節より明確に長いので、今日のトビムシとは異なる様です(以前紹介した「トビムシの1種」は第4節が明らかに長く、また、触角が長くないので、アヤトビムシ科の可能性が大です)。

 大圖鑑の検索表に拠れば、アヤトビムシ上科に属し、触角が4節で、腹節第3節と第4節がほぼ等長なのは、ツチトビムシ科、トゲトビムシ科、キヌトビムシ科の何れかです。この内、トゲトビムシ科は、触角が長く、その第3節と第4節は分節しており、今日のトビムシとは触角の感じが随分異なります。また、キヌトビムシ科は、小型で体色は白か灰色とのことなので、これも該当しません。

 以上から、今日のトビムシは、消去法により、ツチトビムシ科(Isotomidae)に属すと云うことになります。

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オマケにもう1枚.

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/11)



 さて、次は絵合わせでの確認です。ツチトビムシ科は九州大学の日本産昆虫目録で71種、東京都本土部昆虫目録では21種が記録されています。やや大きなグループであり、また、世界的に分布する様なので、BugGuide.Netにもかなりの写真が載っています。しかし、Web上で調べている間に、スザマジク強力なトビムシ専門のサイトを見つけてしまいました。「Checklist of the Collembola of the World」と云う複数の研究者によるHPで、トビムシについてのボーダイな情報が公開されています。

 HPの全体は、まだよく読んでいませんが、ツチトビムシ科の写真だけでも500枚位はあります。一通り見るだけでも大変ですが、ツチトビムシ亜科(Isotominae)のIsotoma属に良く似た種類が居ました。Isotomurus属もかなり似ていますが、胸部と腹部の体節に余り違いが無く、写真のトビムシの様に胸部第2、第3節が丸くて長いのはIsotoma属の様です。Isotima属は、九州大学の日本産昆虫目録では8種、東京都本土部昆虫目録には4種の記録があります。

 しかし、絵合わせで属まで決めるのには、些か抵抗があります。ツチトビムシ亜科であることは間違いないと思いますので、今日は「ツチトビムシ亜科の1種(Isotominae gen. sp.)」としておくことにしました。

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2010年12月10日 (金)

ツユムシ(Phaneroptera falcata)(雄)


 今日は、また画像倉庫で眠っていた写真を出します。細めのキリギリスの仲間、ツユムシ(Phaneroptera falcata)です。今まで何回も撮影しているのですが、どうも直翅目(バッタ、キリギリス、コオロギ)が好きでないのと、写真が完全でないので、掲載していなかったのです。


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ツユムシ.触角が長過ぎて全部は写っていない

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 何処が完全でないかと言うと、触角が長過ぎて何時もその先端がチャンと写っていないのです。上の写真も左の触角は多分先端まで写っていますが、右は途中で切れています。触角が余りに細いので、ファインダーで覗いていても、何処まで続いているのか良く分からないのでこう云うことになります。

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横から見たツユムシ.触角の先の方は省略

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 場所は4丁目の「神明の森みつ池特別保護区」に隣接する「みつ池緑地」で、国分寺崖線の上側です。昨年から世田谷区の各緑地は除草の頻度が上がった様で、こちとらとしては何とも不都合なのですが、今日の写真を撮影した一昨年まではしばしば草ボーボーの状態になっていました。このツユムシもその草ボーボーの時に撮影したものです。留まっている草は、メヒシバでしょう。典型的な草地の「雑草」です。

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もう少し近づいてみる.前脛節基部に「耳」が見える

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 ツユムシは、キリギリス科(Tettigoniidae)ツユムシ亜科(Phaneropterinae)に属します。似た様な種類に、同属のアシグロツユムシ、別属(Ducetia)のセスジツユムシがあります。

 アシグロは、名前の通り後脛節が黒く、また、触角も黒色でその中に小さな黄白色の斑があり、区別は簡単です。また、セスジツユムシは、前翅からはみ出している後翅の長さがツユムシよりもかなり短いと云う特徴で判別出来ます。

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背面の拡大.背中の模様は胸部ではなく前翅の後縁

両方の前脛節基部に「耳」があるのが分かる

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 写真のツユムシは雄で、背中に不明瞭な暗色斑があります。「福光村昆虫記」に拠ると、この暗色斑を持つのは雄のみで、雌には無いそうです。

 この色の付いた部分、良く見ると、胸部ではなく前翅の後縁です。左側の翅が上になっていますが、保育社の昆虫図鑑の検索表を見ると、これはキリギリス上科の特徴で、コオロギ上科では右の翅が上になります。

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ツユムシの顔写真.口の周りには複雑な構造がある

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 同図鑑に拠ると、「ジ・ジ・ジ・ジィ・ジィ・ジィ(しだいに強く)」と鳴くが、弱くて注意しないと聞こえないそうです。私は、これまでに何処かで聞いているかも知れませんが、これがツユムシの声だとして聴いたことは一度もありません。

 3番目、4番目の写真を良く見ると、前脛節の基部近くが膨らんで、真ん中が窪んでいます。これがキリギリス類の「耳」です。バッタ類では腹部第1背板の側方に耳があります。また、カマドウマ科やコロギス科等には「耳」はありません。

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斜め横から見た顔写真.口の横から出て上の方を折れ曲がり

口の前に終わるのが小腮鬚、下から伸びているのは下唇鬚

(写真クリックで拡大表示)

(2008/09/24)



 最後にツユムシの顔写真を2枚出しておきました。口の周りにややこしい構造があります。2枚を比較すると、これは2つの別の構造からなっていることが分かります。顔の横から出て複雑に折れ曲がり口の前で終わっているのが小腮鬚、下から出て、同じく口の前で終わっているのが下唇鬚です。

 以前、クビキリギスの口器の構造を別のWeblogで説明しました。分からない部分もありましたが、興味のある読者はこちらをどうぞ。


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2010年10月20日 (水)

アオマツムシ(Truljalia hibinonis


 今年の秋は虫が少ないと思っていたのですが、最近になって漸く色々姿を現す様になってきました。しかし、夜鳴く虫の数は明らかに少ない様です。毎年、我が家の周辺ではアオマツムシが彼方此方で大声を競っていて喧しい位なのですが、今年はお隣の雑木の中で寂しく1頭が鳴いて居るだけです。

 そのアオマツムシ(Truljalia hibinonis、九大目録ではCalyptotrypus hibinonis)の雄を4丁目の国分寺崖線下で見つけました。


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ヤブガラシの葉に留まっていたアオマツムシの雄

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 アオマツムシは樹上性で、普段は木の枝の茂みの中に居て「声はすれども姿は見えず」なのですが、高さ50cm位の所にあるヤブガラシの葉表に留まっていました。余り元気がないのか、回りの葉を退けたり、留まっている葉を傾けたりしても、全く逃げようとはしませんでした。

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横から見ると、体側上縁の黄色い線が目立つ

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 アオマツムシは在来種ではありません。北隆館の新訂圖鑑には1917年に東京で発見されたと書いてありますが、Wikipediaを見ると「日本での初記録年月日も1898年(明治31年)という説と1908(明治41年)年ごろという説があり、データの付いたタイプ標本が残っていないため判然としていない。ただし、初記録地は東京都の赤坂榎木坂である」と書かれています。何方が正しいのか判断出来ませんが、同じ外来種のウスグモスズよりは相当昔から日本に生息している古参の虫と云うことになります。

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アオマツムシの頭部と胸部.脚の付節は3節

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 体長は2cm強、触角がかなり長く、綺麗な緑色をしているので、遠目にはキリギリスの仲間の様に見えます。しかし、コオロギ科(Gryllidae)マツムシモドキ亜科(Podoscirtinae)に属します(九大目録ではコオロギ上科(Grylloidea)マツムシ科(Eneopteridae))。

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雄の翅には「芸術的」な模様がある

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 雄の翅は複雑な、芸術的とも言える翅脈を持っています。しかし、雌の方は普通の網目模様です。以前、我が家で雌の個体を撮影し別のWeblogに載せてありますので、興味がお有りの方は此方をどうぞ。

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アオマツムシの顔.中々良い顔をしている

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 直翅目(バッタ、コオロギ、キリギリス)の顔と云うのは、私はどうもあまり余り好きになれません。しかし、このアオマツムシは中々良い顔をしていると思います。そこで、上と同じ様な写真ですが、もう1枚斜めから撮った写真を載せることにしました。

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オマケにもう1枚.位置の関係で真っ正面からは撮れなかった

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/02)



 なお、調べてみると、アオマツムシの学名は上記のTruljalia hibinonisCalyptotrypus hibinonisの他に、更にMadasumma (Calyptotrypus) hibinonis(属名と種名の間にある括弧内は亜属名)と云うのも見付かりました。しかし、この3番目のMadasummaと云う属名は1922年に出版された論文で使われているもので、恐らく最初に記載された時の属名なのでしょう。北隆館の新訂圖鑑は九州大学の昆虫目録より新しいので、ここでは新訂圖鑑にあるTruljalia hibinonisを使用しておきました。


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2010年10月 8日 (金)

イボバッタ(Trilophidia annulata japonica


 先月の8日に帰国しました。1ヶ月前です。出発したのは6月8日ですから、丁度4ヶ月間休んでいたことになります。

 涼しくなってから帰国したので良く知らないのですが、今年の夏は大変な酷暑だったそうで、そのせいか、秋になっても虫の姿を余り見かけません。駅から約250mに位置する我が家の庭などは酷いもので、時折ホソヒラタアブ、ヤマトシジミやキタキチョウがやって来るだけ、ひっそり閑としています。しかし、少し町の奥の方に行けば、少しは新顔の虫を見つけることが出来ます。

 今日は、その中から、イボバッタ(Trilophidia annulata japonica)を紹介しましょう。


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イボバッタ.背側を除いて粗い剛毛で覆われている

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 バッタ科(Acrididae)トノサマバッタ亜科(Oedipodinae)に属します。体長は、北隆館の圖鑑に拠れば、25~35mmですから、この仲間としては最も小さい方と言えます。撮影したのは世田谷区の「第二成城七丁目ファミリー農園」です。「第一」の方は、昨年の秋に廃止され、現在は草地になっています。

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後脚の内側にだけ目立つ模様がある

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 以前紹介したクルマバッタモドキと同様、地面の上が好きな様です。土や枯れ草の上に居ると、周囲に紛れて多少見付け難くなります。上の写真の様に、後脚の内側にはハッキリした白黒の模様がありますが、外側には目立つ模様は無いと言って良いでしょう。

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斜めから見た図.右前脚、触角が草と一緒になってやや見辛い

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 この家庭菜園でイボバッタを見るのは初めてです。一昨年はクルマバッタモドキが沢山居たのですが、その後は殆ど見ていません。年によるバッタ類の消長は結構激しい様です。

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横から見た頭部と胸部.背面中央に大きな瘤状突起た2つ見える

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 イボバッタの名は、胸部や頭部にある疣状の突起から来ているのだそうです。頭部の突起は横(上の写真)ら見るとハッキリしませんが、背面(下の写真)や前方(更に下の写真)から見ると良く分かります。しかし、胸部の突起と較べると高さは低く、単なる凸凹と言った方が適切の様な気がします。

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背側から見た頭部と胸部.頭部背面は凸凹している

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 例によって、真っ正面から顔写真を撮ってみました。どうもこの手のバッタは、口がかなり引っ込んだところにあり、口器と複眼の両方に焦点を合わせるのは一寸難しい様です。

 顔の中心近くにある白っぽい斑は単眼の一つ(中央単眼)でしょう。他の2角単眼は、複眼の内側にあります。これらの単眼の位置は、クルマバッタモドキ(同じくトノサマバッタ亜科)と同じですし、少し遠縁のショウリョウバッタ(ショウリョウバッタ亜科)でも殆ど同じです。

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前から見たイボバッタの顔.単眼が3個見える

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 カマキリやキリギリス類は良く触角の掃除をします。バッタ科では余り見た記憶がないのですが(そもそもバッタ類を余り観察していないので自信はありません)、このイボバッタは触角の掃除が好きな様です。前脚で触角を地面に押さえ付け触角を引っ張って居ました。端から見ると、かえって土が付いて掃除にならないのではないかという気がします。或いは、掃除をしているのではなく、痒いのかも知れません。

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触角の掃除をしているところ.触角を下げると何とも変な顔!!

(写真クリックで拡大表示)

(2010/10/03)



 このイボバッタに関しては、もう一つ面白い習性を見つけました。前進する前に必ず後脚を左右交互にモゾモゾと動かすのです。何か準備体操をしている様で、何となく微笑ましく感じられました。

 なお、此処では学名としてTrilophidia annulata japonicaを採用しましたが、Trilophidia japonica、或いは、Trilophidia velnerataとしているサイトもあります。北隆館の大圖鑑、保育社の原色日本昆虫図鑑(下)、九州大学の日本産昆虫目録、東京都本土部昆虫目録ではTrilophidia annulata japonicaとなっています。何れの学名が正しいのか、私には良く分かりませんが、手元にない(近くの図書館にもない)高価な「日本直翅類学会編:バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑」を見れば正しい学名が出ているのではないかと思います。


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2010年4月28日 (水)

カワトビケラ科(Philopotamidae)の1種??


 先日、「神明の森みつ池特別保護区」の前を通った時、池(昔、近郊のお百姓のオバサンが大根などを洗っていた場所)の横でトビケラの1種が群飛していました。「群飛」と云っても全部で20頭位ですから、大したことはありません。全体的に黒っぽく、翅端まで1cm程度の小さめのトビケラです。

 以前にも「トビケラの1種」を紹介しましたが、今回のは触角が黒っぽく、また、大きな小腮鬚を持っており、明らかに別種です。


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「神明の森みつ池特別保護区」に居たカワトビケラ科(?)の1種

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 今回は背面、側面、前面の3方向から写真が撮れましたし、小腮鬚もシッカリ写っているので、科の検索を試みてみました。科への検索表は、北隆館の圖鑑と保育社の図鑑の両方にありますが、前者は写真からは良く分からない翅脈相が多くのキーに含まれているので、後者を使うことにしました。

 しかし困ったことに、キー2で単眼の有無が問題となります。背面からの写真は、上の写真以外にも何枚かあるのですが、果たして単眼(あれば3個)があるのか否か判断出来ません。そこで、「なし」とするとその先で該当する項が無くなり迷子になってしまいました。どうやら、「単眼はある」の方が正しい様です。

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別個体.小腮鬚が大きく、脚が4対あるが如し

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 「2.単眼はある」とすると、次に小腮鬚の節数や長さが問題となります。下の写真を見ると、小腮鬚は5節で、第5節は比較的長く第4節の倍以上あります。「3.小あごひげ[小腮鬚]は4節か5節」→「5.小あごひげは5節」→「7.小あごひげの[第]5節はたわみ、第4節の2~3倍ある」→「8.体は小さく、触角は太く前翅長よりはるかに長くならない」を経てカワトビケラ科(Philopotamidae)へ落ちました。

 毛翅目(トビケラ類)の形態学では、距式と云うものが問題となります。これは、脛節にある距の本数を前肢-中肢-後肢の順に並べたものです。写真のトビケラでは前肢に1本、中肢に4本、後肢にも4本(ここに示した写真では後肢の距が良く見えませんが、他の写真で4本見えます)の距がある様に見えますから、これは1-4-4と表されます。北隆館の圖鑑に拠れば、カワトビケラ科の中で、距式が2-4-4であればカワトビケラ亜科、1-4-4であればコタニガワトビケラ亜科であると書かれています。今日のトビケラはコタニガワトビケラ亜科に属すことになります。

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上の写真の部分拡大.小腮鬚は5節で、第5節は第4節の約2倍長

中肢の脛節距は全部で4本見える

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 保育社の図鑑では、カワトビケラ科は検索表にはありますが、図版・解説の方には1種も載っていません。北隆館の圖鑑を見ると、1種だけミミタニガワトビケラが出ていました。しかし、図版にある標本写真を見ても、似ているのか似ていないのかすら良く分かりません。

 そこで、またBugguide.netの御世話になります。カワトビケラ科成虫の生態写真が20枚近くあり、背面から見た頭部の形や小腮鬚の構造は今日のトビケラとよく似ています。

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別個体.正面からだと前肢脛節端に距が1本あるのが分かる

新葉の赤い植物に留まっているので色が一寸変

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 しかし、私はトビケラと云う虫には全く不慣れです。何処かで大きな過ちを犯しているかも知れません。そこで、「カワトビケラ科の1種??」と「?」を2つ付けておくことにしました。


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2010年4月13日 (火)

マルトビムシの1種(その2)


 10日、11日と春らしく晴れた日が続きましたが、生憎色々な用事があって、虫撮りに出かけることが出来たのは11日の3時近くになってからでした。久しぶりに「みつ池緑地」に寄ってみました。夏にはホタルの発生する「神明の森みつ池特別保護区」の上側に隣接する公園の様な緑地です。

 小さなキウリグサ(キュウリグサ)が沢山咲いており、その径3mm位の小さな花にもっと小さなケシ粒の様な虫が来ていました。マルトビムシ科(Sminthuridae)の1種です。


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「みつ池緑地」のキウリグサの花に来たマルトビムシ科の1種

花の直径は約3.0mm、マルトビムシの体長は1.0mm

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)

 体長は1.0mm、普通の等倍接写では一寸キツイ大きさです。しかし、最近はテレプラスを持って行くことにしていますので、大して高精度ではありませんが、何とか細部も見える写真を撮ることが出来ました。



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隣の花にもマルトビムシがやって来た

色は少し違うが同種であろう

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 以前、タラヨウの葉裏で越冬中の「マルトビムシの1種」を紹介しましたが、そのマルトビムシにかなり似ています。しかし、同じ種類か否かはについては、何らの情報もなく、判断のしようがありません。

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もう少し接近.隣のマルトビムシが此方を向いている

(写真クリックで拡大表示)

(2010/04/11)



 余りに小さいので容易に目に付きませんが、かなり彼方此方のキウリグサの花に来ている様でした。上の写真では、隣の花に来ている別の個体が写っています。色がかなり違いますが、多分、同じ種類でしょう。

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花の中に頭を突っ込むマルトビムシ

花粉を食べているものと思われる

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/04/11)



 日本産トビムシは、Wikipediaに拠れば、14科103属約360種が記録されているとのことです。多くは腐植質を食べますが、北隆館の圖鑑に載っているトビムシ目(粘管目)の解説を読むと、「口器の形態から咀嚼摂食性、吸収食性、捕食性に区分され、消化管内には腐植質、菌類の胞子や菌糸、花粉、土壌、動物質などが見られる」と書かれています。

 Webで調べると、花粉を食べているマルトビムシの写真が少しですが見付かりました。今日の写真では、花の中に頭を突っ込んでいるだけで何をしているのかは良く分かりませんが、やはり花粉を食べているのでしょう。

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キウリグサの花の上を歩くマルトビムシ

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/04/11)



 トビムシは代表的な土壌性昆虫です。しかし、圖鑑に寄れば、「海岸の岩礁上や砂礫の中、氷雪上、極地、アリやシロアリの巣穴、洞穴内のグアノなど」に生息する種類もあり、また、「土壌と樹上間を季節的に上下移動する種類も知られ」ているとのことです。この写真のマルトビムシや以前紹介した「マルトビムシの1種」も、或いは、土壌と植物体上を往復しているのかも知れません。

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頭部と腹部の両方に焦点があったのはこの1枚のみ

数個の小眼からなる眼斑を形成する

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/04/11)



 今日は、また、良い天気になりました。漸く、本格的な春がやって来た様です。サッサと投稿を済ませて、虫撮りにでも出かけることにしましょうか。


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2010年4月 1日 (木)

オナシカワゲラ科(Nemouridae)の1種


 先日、「三丁目緑地」にある泉の横で撮影した「トビケラの1種」を掲載しましたが、今日は、同じ場所で撮影したカワゲラを紹介します。ムクノキの樹皮上に居ました。尾端が見えないので体長は分かりませんが、翅端まで約1cm、前翅長は約7.5mmです。

 トビケラもカワゲラも似た様な名前で紛らわしいですが、全然違うグループで、外見も全然異なります。トビケラは毛翅目、カワゲラは襀翅目(せきしもく)に属します。以前も書きましたが、毛翅目は鱗翅目に近いかなり高等な連中ですが、襀翅目はトンボに近い原始的なグループとされています。

 「襀」と云う字は、画面では一寸表示がおかしく、分かり難いかも知れません。「衣偏に責」です。シフトJIS・コードには無い漢字なので、今日の原稿はUTF-8・コードで書いています。妙な具合に表示されているのはそのせいです。


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「三丁目緑地」の泉の脇に居たカワゲラ

オナシカワゲラ科の1種と思われる

翅の下から出る尾は見えない

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 漢和辞典で「襀」の字の意味を調べると、字義は「衣服の折りこみ」となっています。襀翅目のラテン名であるPlecopteraの「pleco-」の意味は「folded」で、「pter」は勿論「翅・翼のあるもの」の意ですから、襀翅目はPlecopteraの正しい訳なのです。なお、「カワゲラ目」と云う「ゆとり教育」的な分かり易い呼び方もありますが、私は好みません(半翅目をカメムシ目、双翅目をハエ目、鱗翅目をチョウ目等とするのは誤解の元です)。

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ムクノキの樹皮上を歩くオナシカワゲラ科の1種

額に3個の単眼があるのが分かる

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 さて、このカワゲラ、例によって?種類が分かりません。北隆館の新訂圖鑑(2008年)に拠ると、「現在までに記載されている日本産カワゲラ目の種類は約200種であるが、未記載種が多く、実際に日本に生息している種数を350~400種とする推定もある」とあります。研究は余り進んでいない様ですが、大きなグループではないと言えます。

 しかし、その同定は外見からは困難で、生殖器(外部、内部)を見る必要があるそうです。写真からの判別は無理と云うことですが、まァ、科まで落ちれば万々歳です。北隆館の圖鑑には検索表は付いていませんが、保育社の昆虫図鑑には科への検索表がありますので、それで科まで落としてみましょう。

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樹皮の上にある何か(地衣類?)を食べているらしい

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 写真のカワゲラを見ると、翅は腹部を捲かず、大きな単眼が3個あり、尾(種類によっては尾端に左右1対の長い尾がある)は見えません。検索表の「翅がある・単眼を持つ→尾は非常に短い」で可能性は3科に絞られます。次に、各肢の付節第2節が第1節や第3節とほぼ等長であればミジカオカワガラ科(Taeniopterygidae:シタカワゲラ科)、付節第2節が短かくて翅が腹部を捲かなければオナシカワゲラ科(Nemouridae)の何れかになります(付節第2節が短かくて翅が腹部を捲けばハラジロオナシカワゲラ科)。

 写真のカワゲラには等倍でシッカリ撮る前に逃げられてしまったので細部が分からず、付節の長さが良く分かりません。写真によっては第2節は第1第3節より短く見えますが、等長の様に見える写真もあります。

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横から見たオナシカワゲラ科の1種

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 こうなると絵合わせしかありません。そこで、また、BugGuide.netの御世話になることと相成ります。幸いこの両科とも北米に分布しており、かなりの写真があります。両科の写真を比較してみると、ミジカオカワゲラ科とオナシカワゲラ科では翅脈相が少し異なり、写真のカワゲラはオナシカワゲラ科の翅脈をしています。また、頭部の形もオナシカワゲラ科の虫に似ており、ミジカオカワゲラ科とは一寸違います。

 些か怪しげなところもありますが、ここでは、「オナシカワゲラ科の1種」としておきます。

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上の写真の部分拡大.付節が良く見えない

翅は腹部を捲いていない

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 カワゲラの幼虫は例外なく水生で、清水をを好みます。北隆館の圖鑑には、「水生昆虫の中でも水質の有機汚濁に最も弱い群のひとつとされ、山地渓流など有機汚濁に乏しい河川に種に生息し、都市河川、平地の農業用水、池沼などには殆ど生息しない」とあります。三丁目緑地の泉(2つある内の北西側の方)は、少なくともカワゲラが棲む程度には綺麗な水が湧いていると言うことになります。

 なお、財団法人「世田谷トラストまちづくり」が行った「国分寺崖線保全調査~昆虫調査 崖線の昆虫類」(夏と秋の2回、調査年不詳)に拠ると、カワゲラは「三丁目緑地」では確認されていますが、「神明の森みつ池」では見付かっていません。

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触角を除いた本体部分?を拡大

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 圖鑑に拠れば、カワゲラ類には冬から早春に羽化する種類が多いそうです。実は、昨年の3月にも今日のカワゲラより大きい別の種類を撮影しています。その内紹介の予定です。


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2010年3月30日 (火)

トビケラの1種


 先日掲載したカジイチゴを撮影したのは「三丁目緑地」の北西部にある泉の脇でしたが、その泉ではトビケラやカワゲラが発生しており、周囲の樹に留まっていました。今日はその内のトビケラの1種を紹介します。

 尾端が隠れているので体長は分かりませんが、翅端までは13~14mm、裸眼でもトビケラであることが分かりました。


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「三丁目緑地」の泉で発生したトビケラの1種

毛が多く、触角が非常に長い

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 と言っても、種はまるで分かりません[追記参照]。種どころか科すらも分かりません。保育社の図鑑でも北隆館の圖鑑でも、検索表は翅脈と小腮鬚(口器の一部)の構造を検索キーに使用しています。翅脈は翅表面の毛を除去しなければ分からず、小腮鬚はこの写真では良く見えません。

 また、図鑑の図版はその殆どが展翅した標本写真です。この写真のトビケラを展翅するとどんな風になるのか良く分かりませんし、載っている種類数は多くありません。絵合わせをするのも一寸無理な様です。

 仕方なく、「トビケラの1種」です。トビケラは毛翅目に属し、毛翅目には「トビケラ」の名の付く虫しか居ませんから、分類名を使用するのならば「毛翅目の1種」とすべきでしょうが、科にも落ちないと云うのは一寸カッコ悪いので「トビケラの1種」としておきます[追記参照]。

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上から見るとこんな感じ.翅を屋根型に畳んでいる

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 トビケラ、カワゲラ、カゲロウ等の水棲昆虫は、一般には余り縁のある生き物ではないでしょう。私もこの類の虫には縁が薄く、トビケラを撮影したのは実はこれが初めてです。

 しかし、有名な天竜川の食用昆虫「ザザムシ」はトビケラの幼虫が主体ですから、そう云う点では、多少の縁があるとも言えます(10年ほど前に食べたことがあります)。

 北隆館の圖鑑に拠れば、「日本からは現在約430種が記録されている.しかし、この種類数は将来には倍近くなる可能性もある」とのことです。翅長は5~40mm程度ですから、昆虫としては決して小さい方ではありませんが、その割りには研究が進んでいない様です。やはり、水のある所にしか生息しない虫は、研究するのに制約があるのかも知れません。

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頭部の拡大.毛が邪魔をしてどれが小腮鬚か良く分からない

(写真クリックで拡大表示)

(2010/03/22)



 写真を見ると、トビケラはかなり原始的な昆虫の様にも感じられます。しかし、カゲロウ、カワゲラとは異なり、トビケラは鱗翅目(蝶、蛾)に近い、相当に高等な昆虫です。「人は見かけによらぬもの」と言いますが、虫も外見で決めつけると、往々にして誤りを犯す様です。


[追記]: Caddis<英語でトビケラの意>氏より、「写真の種は,サイズや触角基部の形態からオオカクツツトビケラ(Lepidostoma crassicorne)だと思います」とのコメントを賜りました。

 オオカクツツトビケラはカクツツトビケラ科(Leoidostomatidae)に属し、北隆館の圖鑑には「成虫の体長8mm前後、開翅長20mm前後.(中略)(触角)第1節は2節とほぼ同長(中略).燈火に良く飛来する.年に1世代あるいは2年に3世代で、夏あるいは春から初夏と秋に成虫が出現.終齢幼虫は、樹皮などの木質植物片で四角錐の筒巣を作るが、その前は葉片で井桁型の巣も作る.湧水流や細流に多い傾向がある.分布:北海道・本州・四国・九州」とあります。

 また、筑波大学の生物学研究者、田邉(田辺)晶史の公式個人Webサイトを見ると、「河川細流部の捕食者(魚、肉食性トビケラ)のほとんどいない環境に生息する、カクツツトビケラ科で最も大きくなる種.巣には飛行機の羽のような突起があり、特徴的.幼虫は1齢から落葉を巣材に使う」と書かれています。(2010/04/26)



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2010年3月15日 (月)

マルトビムシの1種


 虫の写真を撮っているとき、別の虫が近くにやって来て、一緒に写り込むことがあります。撮影中は焦点合わせに神経を集中していますし、ファインダーから覗く像は焦点深度が浅いので、中々その存在に気が付かないものです。しかし、時に気が付くこともあります。

 今日紹介するのは、今年の1月に掲載したナガケチャタテを撮影しているとき、横から入って来た虫です。この時は、ファインダーの隅にチョコチョコ歩く腹の丸い黒っぽい虫が居るのに気が付いていました。チャタテムシの幼虫かと思いながらも、先ず、ナガケチャタテの方をシッカリ撮ってからでないと虻蜂取らずになると思い、その撮影に専念していたところ、いつの間にか居なくなっていました。

 当然、この横から入って来た虫に焦点を合わせることはなかったのですが、家に帰ってから写真を見ると、偶然にも、ナガケチャタテから外れて、横に居た虫の方に焦点が合っている写真がありました。

 良く見ると、チャタテムシの幼虫ではありません。マルトビムシ科(Sminthuridae)の1種でした。


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ナガケチャタテと一緒にタラヨウの葉裏に居たマルトビムシ科の1種

チャタテムシから焦点が外れてトビムシに合ってしまった

左下にカイガラムシの様な妙なものが写っている

(写真クリックで拡大表示)

(2010/01/08)



 体長は、約1.2mm。種は分かりませんが、北隆館の圖鑑に載っているマルトビムシ科の多くは1.3mm以上ですから、まだ幼虫なのかも知れません。チャタテムシの幼虫とは異なり、胸部は短く、その体節や腹部の体節(第4節まで)は融合して一つになっています。

 普通の昆虫とは、眼が一寸違って見えます。トビムシ類の眼は、種によって異なりますが、最大8個の小眼からなり、眼斑と呼ぶのだそうです。見た感じは、昆虫よりもムカデやヤスデの眼に似ています。

 この虫が居たのは、「三丁目緑地」に生えているタラヨウの葉裏です。トビムシが葉裏に居ると云うのは一寸意外でしたが、Webで調べてみると、マルトビムシには葉裏で見付かる種類が結構いる様です。まァ、捕食性のトビムシも居るそうですから、トビムシにも色々あるのでしょう。

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上の写真の部分拡大.普通の昆虫とは眼が違う

(拡大してピクセル等倍)

(2010/01/08)



 今日は時間がないので、写真の少ないもので済ませました。このところ毎日更新しています。これは非常に珍しいことです。今日で連続9日ですが、果たして何日まで続くでありましょうか。


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2010年2月15日 (月)

クダアザミウマ科の一種(カキクダアザミウマ?)


 今日はまたケヤキの樹皮下に居た虫を紹介します。アザミウマの1種、今まで樹皮下では見たことのない虫です。

 「七丁目緑地」に生えているケヤキの樹皮下に居ました。


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ケヤキの樹皮下に潜むクダアザミウマの1種(カキクダアザミウマ?)

その左側と右側に種類の異なるトビムシが居る

左上の黄色い楕円形のは多分ダニの1種

(写真クリックで拡大表示)

(2010/01/19)



 最初の写真は少し倍率を低くして、周りにいた虫も一緒に示すことにしました。真ん中の真っ黒なのがアザミウマで、体長は反り返っているので正確には分かりませんが3mm弱、その左にいる薄い縞模様のはトビムシで、以前紹介した「トビムシの1種」と同じ種類ではないかと思います。このトビムシの体長は1.0mm、右下に居る暗灰青色のもトビムシの1種で体長0.8mm、左上に黄色い楕円形の虫が2匹ボケて写っていますが、これは恐らくダニでしょう。体長は0.3~0.4mm程度。

 こんな風に、樹皮下には極く小さな色々な生き物が潜んで居ます。しかし、メガネを掛けても肉眼で見分けられたのは黒いアザミウマと暗灰青色のトビムシだけで、他は家に帰って写真を拡大してから漸く気が付きました。

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体長は反り返っているので良く分からないが3.0mm弱

翅には羽毛状の長い縁毛がある.前腿節が太い

翅は淡褐色、白く見えるのは反射による

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 アザミウマは総翅目(アザミウマ目)に属する虫の総称で、多くは体長1.5mm以下、しかし、中には写真のアザミウマの様に3mm位の種類もかなり居ますし、もっと大きなアザミウマも知られています。

 全農教の「農作物のアザミウマ」に拠ると、世界で2亜目8科約5000種が記録されており、日本にはその内の2亜目4科200種前後が棲息するとのことです。

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前脚の先端部は多少色が薄い様に見える

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 この2亜目とは、クダアザミウマ亜目とアザミウマ亜目のことです。「農作物のアザミウマ」の検索表に拠ると、前者は「腹部第10節は管状をなし、その先端に付着する環状小板から長刺毛が生える。前翅は微刺と翅脈刺毛ともに欠き、周縁毛は幕状部から直接生じる(後略)」とあり、後者は「腹部第10節は管状をなさず、背板中央から長刺毛が生える。前翅は微刺と翅脈刺毛を備え、周縁毛は小さな受け口から生じる(後略)」となっています。

 何分にも虫が小さいので、良く分からないのですが、最後の2枚の写真を見ると腹部の先端は管状に近く、また、前掲書の図に描かれた前翅を見ると、どうもこのアザミウマはクダアザミウマ亜目に属す様です。

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触角第1~2節は色濃く、第3~5節は明るく、第6節はやや暗く

第7~8節は色濃い様に見えるがハッキリしない

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 クダアザミウマ亜目はクダアザミウマ科(Phlaeothripidae)1科からなり、「日本産アザミウマ文献・寄主植物目録」では107種(1988年)、九州大学の日本産目録では94種、東京都本土部昆虫目録では40種の記録があります。

 「農作物のアザミウマ」には、「主要属および種の検索表」もあるのですが、この写真では細微な構造は分からず、検索は一寸無理です。

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ほぼ真上から撮ったクダアザミウマの1種

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 そこで絵合わせになるのですが、「農作物のアザミウマ」にはクダアザミウマ科は僅か7種しか載っていません。この本は農業害虫としてのアザミウマを扱っている訳ですから、まァ、仕方がないでしょう。

 この7種の中ではカキクダアザミウマ(Ponticulothrips diospyrosi)が一番よく似ています。解説から写真である程度判別の付く部分を切り出すと「(雌は)体長約3.1mm。一様に黒ないし黒褐色、但し各脚の付節と前脚の脛節の先端1/3は明るい。逆に尾管はより暗い。触角第1,2節は黒褐色で、第2節の先端部から第6節の中央付近までは淡褐色、第6節後半はくもる。第7節の基部1/3は淡褐色で、第7節の他の部分と第8節は褐色である。主な刺毛と翅の総毛は淡褐色(中略)。頭部は長さが幅より長く5/4倍。(中略)尾管は頭長より短く、中央部でわずかにくびれている」とあります(なお、Wikipediaの「アザミウマ」に載っているカキクダアザミウマの写真は、画像検索すると色々な所で使用されている様ですが、上記の特徴とは悉く一致しません)。

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暗灰青色のトビムシとアザミウマの御対面

触角がトビムシに殆ど触れている

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 写真と比較すると、一致する写真もありますが、違う様に見える写真もあります。最後の写真などでは触角の第1~3節が黒褐色の様に見えますが、触角は全部で8節しかないので、これは第2節が2つに分かれて見えているのだと思います。

 「農作物のアザミウマ」にある同種の分布図を見ると、東京都はその範囲に含まれていません。しかし、東京都本土部昆虫目録を見ると皇居で記録がありますから、この辺り(東京都世田谷区西部)に居てもおかしくはありません。また、この種は6月に羽化し、その後はカキ、アカマツ、ヒノキ、クヌギ等の粗皮間隙に潜伏し、そのまま越冬するそうです。カキクダアザミウマとすれば樹皮下に潜んでいたのも不思議ではありません。樹皮下で成虫越冬するアザミウマは余り多くないと思います。

 写真は解像度不足で、写真のアザミウマをカキクダアザミウマとするには不充分です。しかし、「クダアザミウマ科の1種」では些か寂しいので、状況証拠を含めて「カキクダアザミウマ?」と「?」を付けて種名を出しておくことにしました。但し、これはあくまで参考の為です。

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触角の第1~3節が色濃い様に見えるが


第2節が2つに見えるのだと思う

(写真クリックでピクセル等倍)

(2010/01/19)



 アザミウマはコナジラミ、キジラミ、アブラムシ等と並んで、微小ではあるが甚大な被害をもたらす吸汁性の害虫として知られています(アザミウマの中には、葉や球根を食害するもの、花粉食性、食菌性、更には捕食性の種類も居ます)。

 しかし、興味深いことに、アザミウマ類が重要な農業害虫として登場したのは昭和40年代からで、それ迄はイネアザミウマなどの2~3種が謂わば二流の害虫として知られていただけだそうです。その理由は確実には分かりませんが、化学合成殺虫剤の多量使用に因って引き起こされた生態系の攪乱、薬剤抵抗性の獲得、また、以前使われていた強力ではあるが危険な農薬の使用禁止措置などが、複雑に入り組んで生じた現象だと思われます。また、社会が豊かになるにつれて、昔は気にしなかった様な農作物の微細な欠陥(アザミウマに因る小さな損傷)が現在では大きな問題になることも関係している様です。

 アザミウマは微小でしかも細長く、一般には殆ど目に付くことの無い虫です。しかし、私の知っている限り、一つだけハッキリ目に見える場合があります。6月から7月にかけて咲くクチナシの花に集るアザミウマです。これらについては別のWeblogで紹介していますので、興味ある読者はこちらを御覧下さい。


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