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2011年1月14日 (金)

マドチャタテ科の1種(Peripsocidae gen. sp.


 年が明けてからの東京地方は毎日晴天続きですが、風の強い日が多く、先日、漸く新年第1回目の虫撮りに行って来ました。場所は、普段余り行かない「七丁目緑地」とその周辺で、樹皮下で越冬中の虫が主な目当てでした。

 「七丁目緑地」は基本的に虫が少ない緑地ですが、今年は例年よりももっと少なく、昨年は彼方此方で集団越冬していたヒメコバネナガカメムシも殆ど居らず、真っ黒なヒメテントウが数頭居ただけでした。その代わり、近くに生えているアカマツやケヤキの樹皮下には新顔の虫が何種か居り、一応の成果を収めることが出来ました。

 今日はその中から、ケヤキの樹皮下に居たチャタテムシを紹介します。


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ケヤキの樹皮下に居たマドチャタテ科の1種

翅端まで2.3mmと非常に小さい

(写真クリックで拡大表示)

(2011/01/11)



 翅がキラリと光ったので、始めはキモグリバエか何か双翅目の昆虫かと思いましたが、写真を撮ってみると、何と、チャタテムシでした。全長(翅端まで)は2.3mm、翅長は1.9mm弱と、今まで撮ったチャタテムシ成虫の中では最小です。

 このWeblogでは、これまでケチャタテ科、ニセケチャタテ科、ホソチャタテ科、ウスイロチャタテ科のチャタテムシを掲載して来ましたが、これらは何れも常緑広葉樹の葉裏に居たものです。樹皮下でチャタテムシを見つけたのはこれが初めてで、翅脈から見ても別の科に属すであろうことは、撮影中にも分かりました。

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横から見たマドチャタテ科の1種。翅脈相は独特(本文参照)

また、R脈が太く、縁紋は黄色を帯びる

(写真クリックで拡大表示)

(2011/01/11)



 前翅翅脈を見ると、後小室(こちらの2枚目の写真をどうぞ)が無く、Rs脈とM脈(翅脈についてはこちらの3枚目の写真をどうぞ)が一部で癒合しています。この様な翅脈を持つチャタテムシは、北海道大学農学部の吉澤和徳準教授が執筆された「Morphology of Pscocomorpha(チャタテ亜目の形態学)」に載っている翅脈図を見ると、マドチャタテ科だけです。ウスイロチャタテ科の翅脈とも似ていますが、ウスイロチャタテ科ではRs脈とM脈は一点で接するだけの種類が普通の様です。

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この角度から見ると、顔や姿は一見ケチャタテ科に似ている

(写真クリックで拡大表示)

(2011/01/11)



 マドチャタテ科とウスイロチャタテ科の翅脈上の明確な違いは、前者では後翅のRs脈がM脈と部分的に癒合しているのに対し、後者では横脈で繋がることが上げられます(吉澤教授も参加されている「Tree of Life Web Project」に拠る)。しかし、今日の写真からは後翅の翅脈は良く見えません。

 この「Tree of Life Web Project」に書かれているウスイロチャタテ科の特徴を読むと、他のチャタテムシでは翅をテント型(tent-like)に畳むのに対し、ウスイロチャタテ科では水平(held in horizontal position)であると書かれています。確かに、以前紹介した「ウスイロチャタテ科の1種(Ectopsocus sp.)(雌)」では翅が水平に近い状態で畳まれていますが、今日のチャタテムシは普通のテント(屋根)型の翅をしています。

 また、マドチャタテ科は樹皮や岩の表面に生息するのに対し、ウスイロチャタテ科は木の枝に付いた枯葉や落ち葉(腐植土)に住むとのことです。

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背側からの写真をもう1枚.全長2.3mm、樹皮凸凹に紛れて

肉眼では何処にいるのか容易には分からない

(写真クリックで拡大表示)

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 以上から、この樹皮下で見つけたチャタテムシはマドチャタテ科に属すと考えて良いと思います。

 マドチャタテ科は、富田・芳賀「日本産チャタテムシ目の目録と検索表(1991)」に拠れば1属5種、吉澤教授の「Checklist of Japanese Psocoptera (Jul. 9, 2004)」では1属7種で、属としてはPeripsocus属1属しか記録されていない様です(「Tree of Life Web Project」に拠ると、全世界ではアジアを中心に12属235種が記録されているとのこと)。吉澤教授のリストは富田・芳賀論文にある5種を全て含んでおり、更に、P. phaeopterusP. hongkongensisの2種が追加されています。

 芳賀・富田の検索表では、前翅は無毛→前翅長は2.0mm以下で、直ぐにP. pumilis(クロヒメマドチャタテ)に落ちてしまいます。しかし、このチャタテムシがどんな虫なのか、調べてみましたが良く分かりませんでした。北隆館の図鑑ではヒメマドチャタテの解説の中でこのクロヒメマドチャタテについて触れていますが、交尾器の構造についてしか書かれていません。

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斜めから見ると、頭の形がケチャタテ科とは異なる

(写真クリックで拡大表示)

(2011/01/11)



 検索表ではP. pumilisに落ちましたが、吉澤教授が追加された2種がまだ残っています。この2種の内、P. phaeopterusは同教授の「皇居の動物相調査で得られたチャタテムシ昆虫」に載っていて前翅長約3mmとあり、また、Web上の写真(ポルトガルのアゾレス大学のサイト)では全身殆ど真っ黒で、明らかに異なります。P. hongkongensisについては良く分かりませんが、分布は国後島と香港と云う奇妙な組み合わせになっています。Web上で探してみましたが、このチャタテムシについても有意な情報は何も得られませんでした。

 以上の考察からは、今日のチャタテムシはP. pumilis、或いは、P. hongkongensisの何れかとなります。しかし、そうと結論を出すのは些か無茶と云うものでしょう。

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同じ様な写真をもう1枚

(写真クリックで拡大表示)

(2011/01/11)



 吉澤教授の「皇居の動物相調査で得られたチャタテムシ昆虫」では、他にPeripsocus sp.が記録されており、まだ、マドチャタテ科の中に未記載種や未記録種があることが示されています。日本産のマドチャタテ科がどの程度研究されているのか良く分かりませんが、吉澤教授のチェック・リストの中には教授によって記載された種が一つもありませんので、研究は不充分であろうと推測されます(教授が研究されたチャタテムシ科の場合、46種中20種が教授の記載に拠る新種です)。

 日本産マドチャタテ科は今のところPeripsocus属1属だけです。しかし、「アジアを中心に12属が生息する」とのことですから、まだ、国内には未記載種や未記録種ばかりでなく未記録属が居る可能性もあります。そこで、今日の表題は、Peripsocus sp.としたいところをぐっと我慢?して、「マドチャタテ科の1種(Peripsocidae gen. sp.)」とだけにしておきました。


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