ハイイロチビフサヤスデ(その2:集団越冬)(Eudigraphis takakuwai kinutensis)
今年の1月に、ハイイロチビフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai kinutensis、或いは、Eudigraphis kinutensis.「チビ」を取ったハイイロフサヤスデと呼ぶこともある)と云う余り知られていないヤスデの1種を紹介しました。
この時は、ケヤキとプラタナスの樹皮下に居た越冬中の個体を1頭ずつ見付けただけです。ところが、先日(11月18日)、とあるケヤキの樹の皮を剥がしたところ、1枚の樹皮片の下に70頭以上が大きく2個所に分かれて集団越冬していました。
このフサヤスデは全国的には珍しい種類の様ですし、集団越冬していると云う話は聞いたことがありません。そこで、重複掲載にはなりますが、もう一度、ハイイロチビフサヤスデを掲載することにしました。
![]() ケヤキの樹皮下で集団越冬中のハイイロチビフサヤスデ 中央右端近くにトビムシの1種が写っている (写真クリックで拡大表示) (2010/11/18) |
「ヤスデ」と名のある通り、多足亜門のヤスデ綱フサヤスデ亜綱(触顎亜綱:Pselaphognatha)に属しています。しかし、御覧の通りとてもヤスデとは思えない独特な外観をしています。フサヤスデ亜綱は、たったの2科3属3種+2亜種(「多足類読本」では5種)しか居ない非常に小さなグループです。
フサヤスデ類についての詳細や、写真のフサヤスデをハイイロチビフサヤスデと判断した根拠については、1月に掲載した記事を参照して下さい。なおここでは、ハイイロチビフサヤスデはフサヤスデ科(Polyxenidae)ニホンフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai)の亜種(kinutensis)としていますが、亜種から種に昇格させて学名をEudigraphis kinutensisとすることもあります(此方の方が新しい分類なのかも知れません)。
![]() 同じ樹皮片下で別の位置にかたまるハイイロチビフサヤスデ この2枚の写真に写っていない個体もかなり居た (写真クリックで拡大表示) (2010/11/18) |
ウスアカフサヤスデが集団越冬している写真はWeb上で屡々見かけます。しかし、ハイイロチビフサヤスデに関しては、集団越冬をすると云うことすら知られていないのではないでしょうか(これは素人の推測に過ぎません)。
![]() 最初の写真の中央やや左下の部分.虫は少し動いている (写真クリックで拡大表示) (2010/11/18) |
実は、これまで主に使用していたマクロレンズが10月の16日に故障した為、それ以降は別のカメラとレンズを使用しています。こちらのカメラの方が画素数が多く、横幅のピクセル数は1.2倍になります。
今日の写真もこの新しい方のシステムで撮影しています。ピクセル数が1.2倍になっても、CCDの大きさは同じですから、ピクセル等倍にした時の拡大率は以前のカメラよりも1.2倍大きくなります。
![]() 上の写真の直ぐ下だが、虫が動いているので 最初の写真とは虫の配置が違っている (写真クリックで拡大表示) (2010/11/18) |
最初2枚の全体像以外の写真は、拡大するとピクセル等倍かそれに近い倍率です。以前に掲載したハイイロチビフサヤスデよりかなり大きい感じがしますが、スケールと比較すると(長い針状の毛の束=尾毛叢を除く)、1枚目の拡大写真で左下の個体が約2.1mm、2枚目の少し曲がった左下の個体で約2.2mmです。
1月に掲載した写真では、1.7~2.2mmでしたから、殆ど差はありません。高島&芳賀「日本産触顎類知見補遺」(1950,Acta Arachnol.,12:21-26)に書かれているニホンフサヤスデ(Eudigraphis takakuwai)の3亜種(或いは3種)の体長は、ウスアカフサヤスデが4~4.5mm、イソフサヤスデが3~3.5mm、ハイイロチビフサヤスデでは2.5~3mmです。この論文の「体長」に尾毛叢が含まれているのか記述がありませんが、本文中にハイイロチビフサヤスデは「成体では尾毛叢を除き体長約2.5mm」とあるので、ハイイロチビフサヤスデとしても少し小さめで、他の2亜種と較べるとずっと小さいと言えます
![]() 最初の写真の下、枠外の部分 (写真クリックで拡大表示) (2010/11/18) |
上述の論文には「本亜種は東京都世田谷区大蔵町即ち以前の砧村(Kinuta)で獲られたので(中略)同地から既に100頭近くの個体を採っているが他産地のに此の亜種に該当するものが見当たらないのは妙である」とあります。大蔵町は現在の世田谷区大蔵で、このWeblogの写真を撮っている成城の隣町です。このハイイロチビフサヤスデが全国的にどう分布するのか良く分からないのですが、どうも関東地方に限られる様です。「日本のレッドデ-タ検索システム」に拠ると、現時点では千葉県と栃木県では絶滅危惧Ⅰ類に入っています。
そこで思うのですが、このハイイロチビフサヤスデ、ヒョッとするとアオマツムシやウスグモスズの様な外来種で、何処かの国から東京、或いは、横浜の港へ運ばれ、その後関東各地に広がったのではないでしょうか。ウスグモスズは外来種とは言うものの、原産地は不明と云う奇妙な虫です。このハイイロチビフサヤスデも同じ様な立場にあるのかも知れません。
この説には、他に根拠はありません。単なる素人の憶測に過ぎませんので、あしからず。
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