ヒトフシムカデ属の1種(Monotarsobius sp.)
大木の樹皮下で越冬しているのは、昆虫やクモだけではありません。樹の低い位置にある樹皮を剥がすと、時々極く小さなムカデを見付けることがあります。今日は、その微小なムカデを紹介することにしましょう。場所は、先日のヒゲブトハムシダマシと同じ七丁目の藪です。
体長は約10.5mm、ケヤキの樹皮片の方にくっ付いていました。
![]() ケヤキの樹皮下に居たヒトフシムカデ属の1種 見付けたときの状態.頭を曲げている 赤い粒々はダニの1種であろう 体長は約10.5mmと小さい (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
日本産ムカデ綱(唇脚綱)にはゲジ、イシムカデ、オオムカデ、ジムカデの4目があります。これらの目は、成体の歩脚数やその形態で簡単に区別することが出来ます。ゲジは非常に細長い15対の歩脚を持ちます。イシムカデも15対ですが、歩脚の長さは普通です。オオムカデは21対か23対、ジムカデには31対以上(日本産)の歩脚があります。ゲジとイシムカデは、幼体では体節数が少なく、脱皮により体節数が増加し、これに伴い歩脚数も増加しますから注意が必要です。しかし、ある段階から脱皮しても体節数は変わらなくなります(半増節変態)。一方、オオムカデとジムカデは幼体から体節数は一定しており、脱皮しても体が大きくなるだけです(整形変態)。
![]() 体を伸ばしたヒトフシムカデ 胴部の第2,4,6,9, 11,13節は極く短い (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
写真のムカデを見ると、普通の長さの歩脚が15対ありますからイシムカデ目に属します。イシムカデ目では、第2,4,6,9,11,13有肢胴節(多足類の体節は頭部と胴部の2つに分けられます)の背板が、他の節よりも短くなる特徴があります。写真のムカデでは、これらの節は極端に短くなっており、拡大しないとその存在が分からない程です。
![]() 上の写真の部分拡大.触角は19節 (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
日本産イシムカデ目は、トゲイシムカデ科、イッスンムカデ科、イシムカデ科の3科から構成されます。東海大学出版会の「日本産土壌動物」の科・属への検索表に拠ると、トゲイシムカデ科の歩脚各節には棘(武装棘)が無いそうで、写真のムカデの歩脚には明らかに棘があります(5番目の写真)から、先ずこの科は除外されます。イッスンムカデ科は、検索表では判断出来ませんが、解説を読むと「単眼が約20以上集まっている」と書かれています。写真のムカデの単眼は数個しか無い様に見えます(下の写真)から、これも除外されます。従って、写真のムカデは、イシムカデ科(Lithobiidae)となります。
日本産イシムカデ科についての研究は、余り進んでいない様です。世界的には数10属以上あると推定されているそうですが、日本産で確実なのは、イシムカデ属とヒトフシムカデ属の2属のみです。検索表に拠れば、第1~13歩脚の付節が2節であればイシムカデ属、1節であればヒトフシムカデ属となります。
![]() 眼は数個の大きさの異なる単眼からなる (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
ムカデ類の歩脚は、基節、転節、前腿節、後腿節、脛節、付節からなります。腿節が前後2節ある点が昆虫とは異なっています。写真を見ると、太くて短い基節、細くてやはり短い転節に続き、やや不明瞭ですが太い腿節が2節あり、そこから急に細長くなって、脛節と少し色の異なる付節がそれぞれ1節づつあります(下の写真)。付節が1節ですから、ヒトフシムカデ属(Monotarsobius)と相成ります。
![]() 歩脚の付節は1節のみからなる 歩脚には細かい棘が沢山ある (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
「日本産土壌動物」のヒトフシムカデ属の解説を読むと、「小さなイシムカデ類のグループで、体色は淡褐色のものが多く、体長10mm以下が多い.触角小節数20個以下.眼には数個の単眼が1列か2列に並ぶ.全国に分布し、特に北方に多く土壌中に生息している.代表的な種はホルストヒトフシムカデM. holstii (Pocock)、ダイダイヒトフシムカデM. elegans Shinoharaがある」と書かれています。
写真のムカデの体長は約10.5mm、触角は19節(3番目の写真)、単眼は数個(4番目の写真)です。体長は10mmを超えていますが、記述では「体長10mm以下が多い」ですから、記述と一致しているとして問題無いでしょう。種は分かりませんので、Monotarsobius sp.としておきます。
![]() おまけにもう1枚 (写真クリックで拡大表示) (2010/03/11) |
今回、触角や眼、歩脚等の細かな写真をチャンと撮ってあったのは、実は、先日もう一方のWeblogでイシムカデを掲載した際、これらの構造が検索時に問題になることを知ったからです。その時は、どうしても歩脚の付節数が写真から判断出来ず、ヒトフシムカデ属か否かを決められませんでした。今回は、その経験を生かすことが出来、何とか属まで落とすことが出来ました。
この我が家の庭にいた方のイシムカデは、今日のヒトフシムカデよりもかなり可愛い感じがします。興味のある読者諸氏はこちらをどうぞ。
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