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2010年3月14日 (日)

ウスイロチャタテ科の1種(Ectopsocus sp.)(雌)


 今日は、昨年の丁度今頃撮影したチャタテムシを紹介します。これまで掲載してきたチャタテムシ類(ケチャタテ科、ホソチャタテ科等)とは一寸違うチャタテムシで、ウスイロチャタテ科(Ectopsocidae)のEctopsocus(和名無し)属に属す様です。

 国分寺崖線下の四丁目にあるミカンの木の葉裏に居ました。体長2.9mm、翅端まで3.3mm、前翅長は2.4mmとやや小さめです。


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ミカンの葉裏に居たウスイロチャタテ科のEctopsocus sp.

3個の単眼の内、前に位置するのは少し小さい

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(2009/03/15)



 翅脈はかなりハッキリ見えますが、残念ながら上下の翅が重なっていて、科の判別に役立てるのは一寸キツイところです。しかし、このチャタテムシと非常に良く似たチャタテムシの1種を我が家で見付けており、この時は偶然にも、翅脈相がかなりハッキリ見えました。

 それを「Yosizawa K. (2005) Morphology of Psocomorpha. Insecta Matsumurana,Series entomology,New series,62,1-44」に載っている各科の翅脈相と比較すると、これはウスイロチャタテ科の翅脈です。前翅は後小室を欠き、M脈とRs脈がほぼ1点で交わり、また、後翅のM脈とRs脈の間に横脈があります(翅脈相についてはこちらの3番目の写真をどうぞ)。

 BugGuide.netで画像を探しても、このチャタテムシに良く似ているのは、ウスイロチャタテ科の虫だけです。ウスイロチャタテ科として間違いないでしょう。

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汎世界のE. briggsiに似るが、色が少し違う

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(2009/03/15)



 この個体は、雌と思われます。と云うのは、これとソックリの色合いと翅脈をした雄と思われる腹部が遙かに小さい(従って、相対的に翅が長い)個体も居たからです。BugGuide.netでウスイロチャタテ科(Ectopsocidae)の写真を見ると、今日の写真の様な翅の長くない個体を雌、腹部に比して翅の長い個体を雄としています。

 雄の方も写真はシッカリ撮ってありますので、今日は雌のみにして、雄の方は、また別の機会に紹介したいと思います[追記:雄の方は2012/03/03に漸く掲載しました]。

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チャタテムシの幼虫が一緒に居るが恐らく別種

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(2009/03/15)



 日本産ウスイロチャタテ科は、「富田・芳賀:日本産チャタテムシ目の目録と検索表(1991)」では8種(未記載種を含めず)、北海道大学の吉澤教授の目録(Checklist of Japanese Psocoptera、2004)でも8種で、全て同じ種が記録されています。この2つの目録の間には、ケチャタテ科やケブカチャタテ科などでは相当の違いがあるのですが、ウスイロチャタテ科では何故か一致しています。分類が安定しているのか、未研究なのかは良く分かりませんが、多分後者でしょう。

 しかし、残念ながら、富田・芳賀の検索表は写真からの判別には利用出来ません。この論文のウスイロチャタテ科の検索表では、検索キーに写真からは判別できない生殖器やその他の非常に細かい構造を使用しているからです。

 それでも属の判別は出来ます。日本産のウスイロチャタテ科は、Ectopsocopsis属とEctopsocus属の2属からなり、前者に属すのはクリイロチャタテ(Ectopsocopsis cryptomeriae)1種のみです。このチャタテムシは北隆館の圖鑑にも載っており、また、BugGuide.netにも写真が沢山あります。翅全体が一様に栗色をしたチャタテムシで、明らかに今日の写真の虫とは違っています。従って、消去法によりこのチャタテムシはEctopsocus属と相成ります。

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チャタテムシの顔は漫画的で楽しい

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(2009/03/15)



 次に、種を決めたいところです。しかし、状況的証拠と絵合わせしか使えません。東京都本土部昆虫目録を見ると、Ectopsocus属はE. briggsi1種のみで、皇居からの報告です。これは吉澤教授の「皇居の動物相調査で得られたチャタテムシ目昆虫」を元にして書かれています。そこで、この吉澤教授の論文を見てみると、その他に未記載種が1種が載っていました。皇居の昆虫相は、一般にこの辺りよりもかなり豊富ですから、今日の写真のチャタテムシはこの2種の何れかの可能性が大です。

 幸い、この論文には虫の特徴が簡単に書かれています。未記載種の方は、雄生殖器の形態についての記述ばかりですが、前翅長約1.5mmとあります。また、E. briggsiについては、「前翅長約2mm.前翅が透明または淡褐色で、翅縁の各脈の末端部に褐色の微小斑を具える点が特徴的.(中略)国内に広く分布する普通種」とあります。

 写真のチャタテムシは、前翅長が約2.4mm、各脈の末端部には褐色の斑が認められます。前翅長が少し長いですが、E. briggsiの特徴を持って居ると言えます。

 このE. briggsiは汎世界種で、写真はBugGuide.netに沢山あります。それを見ると、写真のチャタテムシに良く似ています。しかし、BugGuide.netの写真では腹部の色が茶色をしているのに対し、写真のチャタテムシには白っぽい斑の帯があり、また、全体の色も少し灰色を帯びています。

 どうも、E. briggsiとするには些か不安があります。ここでは、グッと我慢?して、種未同定のEctopsocus sp.としておきましょう。

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オマケにもう1枚

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(2009/03/15)



 昨年の春は、このEctopsocus sp.を色々な所で見付けました。何れも、常緑樹の葉裏ですが、その多くはクモが捕食した昆虫の滓が溜まっている所でした。

 一昨年の夏に、もう一つWeblog「我が家の庭の生き物たち」で紹介した月桂樹の葉裏に群れていた「チャタテムシの1種」は、このEctopsocus sp.に非常に良く似ています。このチャタテムシも、古い葉裏に沢山付いている吸汁性昆虫の脱皮殻や排泄物などに生えたカビを食べていたものと思われます。この手のチャタテムシは、或いは、動物性の残渣に生えるカビを好むのかも知れません。



[追記]表題及び本文中の5個所に、Ectopsocusとすべき所を、Escopsocus或いはExtopsocusと書き間違えをしていた部分がありましたので、本来のEctopsocusに書き換えておきました。また、EctopsocopsisExtopscopsisと打ち間違えて居りましたので、これも訂正致しました。(2012/02/26)

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