ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雌
以前、「シワバネキノコバエ(Allactoneura akasakana)?」を掲載した時、双翅目(アブ、ハエ、蚊)に属す昆虫の和名が混乱していると言う話をしました。ハエと名が付いているのに蚊であったり、アブとあるのにハエであったりする例が沢山あるからです。今日はその混乱している和名の1つであるケバエの仲間を紹介します。
ケバエは「毛蠅」の意だと思いますが、ハエ(短角亜目環縫群)ではなく蚊(糸角亜目)の仲間です。一見したところアブかハエの様で蚊には見えませんが、原画を拡大して見ると触角は8節あります。短角亜目(ハエ、アブ)では触角は3節しかありませんから、これだけでハエではなく蚊の仲間であることが分かります。また、翅脈も、下の写真では分かり難いですが、ハエやアブとは大きく異なっています。
今日紹介するのはウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)、体長は7~8mm、ケバエとしては中程度の大きさです。撮影したのは「三丁目緑地」の上部にあるシャクチリソバが群落しているところで、日付は昨年の11月10日です。雄は沢山居り、空中で数頭が雌の来るのを待機していたりしましたが、雌を見たのは1回だけでした。ケバエ類では、雌は雄よりもずっと個体数が少ない様です。
この連中は雌雄で外観がまるで違うので、雄と雌を別々に紹介することにしました。今日は、先ず雌の方から。
![]() ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雌 頭部は小さく、触角は短いが8節ある.中胸背に2黒条がある 雌の後脚第1付節は膨らまない (クリックで拡大表示、以下同じ) (2008/11/10) |
例によって種の識別には双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」の御世話になりました。この掲示板の古いログの中に、アノニモミイア氏がケバエで「前脛節端に棘があればBibio属」と言う意味のことを書かれているのを見付けましたので、北隆館の圖鑑でBibio属を調べたところ、11月に発生する種はウスイロアシブトケバエ唯1種だけでした。解説文を読むと、記載の殆どは一致したのですが、胸部は雌では全体赤褐色と書かれている点が一致しません。最初の写真で明らかなように、このケバエの中胸背には縦に2黒条があります。
![]() 頭部と脚の先の方を除くと殆ど赤褐色 平均棍は黄色(2008/11/10) |
Bibio属は、九大の目録に拠ると本州に産するものが16~17種、東京都本土部昆虫目録には12種しか記録がありません。しかも、秋に発生する種は少ない様です。そこで、何とか種まで落ちないものかと、「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみました。
早速、達磨氏より、前脛節内側の棘が小さく、後脚の第1付小節が膨らむこと(雄の場合)、平均棍が黄色く、体を覆う毛が白っぽいことからBibio flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)だと思います、との御回答を得ました。
しかし、雌の中胸背にある模様の相違に関しては何も触れられておりません。
![]() 正面から見ると中々恐い顔をしている (2008/11/10) |
背中の模様は個体変異の範囲なのかと首を傾げておりましたところ、今度は、前述のシワバネキノコバエでも御世話になった三枝先生(九州大学名誉教授)から詳細な御説明を賜りました。Bibio flavihalter雌の胸部は、全面的に橙黄色ないし暗赤褐色のものから,この写真の個体に見られる様な暗条を生ずるものまでかなりの個体変異があり、北隆館の圖鑑(原色昆虫大図鑑の旧版及び新訂版)の解説文は、笹川満廣氏(京都府立大学名誉教授)が全面的に橙黄色をした個体に基づいた原記載に従って書かれたものなのだそうです。やはり、個体変異の範囲だったのです。
また、三枝先生は、晩秋に発生するケバエとしては、本種の他に更に2種(+未記載種が少し)あることを付け加えておられました。
![]() 前脚脛節端の棘が良く見える.第1付節は非常に長い (2008/11/10) |
続けて今度はArge氏より、三枝先生も触れられていた論文「Hardy, D. E. & Takahashi, M., 1960. Revision of the Japanese Bibionidae (Diptera, Nematocera)[訳:日本産ケバエ科(双翅目、糸角亜目)の改訂]. Pacific Insects, 2(4): 383-449」がWeb上で公開されていることを教えて下さいました。
今まで、迂闊なことに、学名の命名者や命名年に余り注意をしていなかったので気が付かなかったのですが、この論文を読んで見ると、何と、これはBibio flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)の原記載論文だったのです。三枝先生は、チャンと「Bibio flavihalter Hardy & Takahashi」と書かれているのに、これに全く気が付かなかったとは不注意千万でした。
また、三枝先生が言われていた晩秋に発生する他の2種のケバエは、B. metaclavipes(和名なし)とB. gracilipalpus(和名なし)であることが分かりました。
![]() 葉っぱ(シャクチリソバ)の端まで来たところ 次は飛んで逃げることと相成る (2008/11/10) |
今日は雌の写真を紹介しました。次回はこの雄を登場させます。雌はかなりキツイ顔をしていて、精悍な感じがありますが、果たして雄の方はどうでしょうか。それは次回のお楽しみ。
追記:この原稿を書き終わった頃、丁度「一寸のハエにも五分の大和魂」に達磨氏(達磨大師の異名あり)から書き込みがありました。達磨大師は、栃木県立博物館に収蔵されている標本の中からB. flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)の雌を6個体を探し出したところ、何れも一様に赤褐色をしていたそうです。「やはり標本は沢山集めなくてはいけませんね」と最後に書かれていましたが、この写真の様な中胸背に2黒条ある個体は少ないのかも知れません。
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