トゲキジラミ
今日は一寸面白い虫を紹介します。トゲキジラミ(Hemipteripsylla matsumurana = Togepsylla matsumurana)、キジラミ上科ネッタイキジラミ科(キジラミ科ネッタイキジラミ亜科)に属すとされていますが、異論もある様です。
留まる時、翅を普通のキジラミ(例えばこちら)の様な山形(屋根型)ではなく平らに畳みます。また、前縁脈やその他の翅脈には棘が沢山生えており、触角も白黒の斑模様になっています。かなり変わり者のキジラミと言えるでしょう。
体長は約1.7mm、翅端まで2.6mm、昆虫としては小型であるキジラミの中でも、更に小さい方に属します。
![]() トゲキジラミ.体長約1.7mm、翅端まで2.6mmと小さい 翅を平らに畳み、翅脈には無数の棘がある.触角は斑で綺麗 (クリックで拡大表示、以下同じ) (2008/12/08) |
「三丁目緑地」の下側に位置する、以前紹介したエゴノキや数本のサワラを切り倒して作った公園の縁で見付けました。フワフワとコナジラミ(例えばこちら)の様な感じで飛んで来たのがヤブランの葉に留まったので、マクロレンズで覗いてみたところ、随分奇妙な形をしているのでビックリしました。一体何者なのかと思いましたが、顔を見れば明らかにキジラミです。此処に掲載した背面からの写真を撮った直ぐ後に葉裏に逃げ込まれ、もう2度と見つかりませんでした。そんな訳で、写真はこの2枚しかありません。
家に帰ってからデータをコムピュータに移し、拡大して調べてみました。顔ばかりでなく、翅脈もキジラミ類の特徴を示しています。検索表を見ると、翅脈全体の走り方はネッタイキジラミ科に一番似ていましたが、「前翅の径分脈と中脈の間を繋ぐ擬横脈」が確認出来なかったので、キジラミ上科のキジラミ科に属す様に思われました。
しかし、図鑑には該当する種がなく、また、Internetで調べても分かりません。普通ならば「キジラミの1種」として逃げてしまうところですが、非常に特徴的な形態をしたキジラミです。是非とも種まで落としたくなり、「カメムシBBS」に御伺いを立ててみました。
早速、葱氏よりトゲキジラミではないか、との御回答を得ました。氏が指摘されたサイト、「ウンカ・ヨコバイ識別ミニ図鑑」の中にあるトゲキジラミのページを見てみますと、此処に掲載した写真と全く同じと思われるキジラミが出ていました。
九州大学の目録を参照したところ、トゲキジラミの属すHemipteripsylla属は日本では1属1種です。トゲキジラミで間違いない様です。実はこの「ウンカ・ヨコバイ識別ミニ図鑑」も参照したのですが、ページ間のリンクが一寸間違っていて、トゲキジラミはスキップされてしまい、其処に掲載されているのに気が付かなかったのです。
その後、直ぐに「ウンカ・ヨコバイ識別ミニ図鑑」の管理者氏からも投稿がありました。やはりトゲキジラミに見えるとの御意見でした。また、管理者氏に拠れば、今はネッタイキジラミ科ではなく、タデキジラミ科かキジラミ科とされているらしい、とのことです。
![]() 同じ様な写真だが1枚では寂しいのでもう1枚 (2008/12/08) |
このトゲキジラミは比較的最近(1949年)に発見されたキジラミで、原記載論文(KUWAYAMA, Satoru:On a new species of the genus Togepsylla from Japan; Insecta Matsumurana,17(1):48-49)はInternetで読むことが出来ます。翅脈の図も出ており、やはり「前翅の径分脈と中脈の間を繋ぐ擬横脈」はありません。これは、この属の所属について異論がある理由の一つなのかも知れません。
記載論文の題名で御分かりの通り、最初はTogepsylla属とされていましたが、現在ではHemipteripsylla属となっています。その辺りの経緯は、少し調べてみましたが、良く分かりませんでした。因みに、種名のmatumuranaは、上記記載論文に拠ると、日本の近代昆虫学を築いたとされる北海道大学名誉教授、故松村松年(しょうねん)氏の喜寿(1949年に丁度77歳)を記念して付けられたのだそうです(松村氏の名の付いた虫は他にも沢山あります)。
なお、トゲキジラミの幼虫はクスノキ科のシロダモ、カナクギノキ、ヤマコウバシ、ホソバタブ等の葉に寄生して虫えいを作ます。虫えいは、それぞれシロダモハマキフシ(シロダモ・葉・巻・節)、カナクギノキハクボミフシ(金釘の木・葉・窪み・節)、ヤマコウジハクボミフシ、ホソバタブハマキフシと呼ばれており、虫えいの名前から分かる様に、寄主の違いにより虫えいの形が異なります。また、1年の世代数や白色ろう物質の分泌量も寄主により変わるそうです。
シロダモは「三丁目緑地」の所々に生えています。春になったら、シロダモに虫えいがないか調べてみようと思っています。
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コメント
御丁寧なる御挨拶、痛み入ります。
このところ忙しく、応答が遅れました。
実は、もう一つ、以前、専門家のとりおざ氏から頂いたメールに、トゲキジラミにはよく似た近縁種が居り、その特徴に付いても書かれていた筈なので、そのことを書こうと思って居りました。ところが、何処を探してもそのメールが見つからず、2~3日後、漸くgooブログのメールボックスにあったのが、半年以上もアクセスしていなかった為に削除されてしまっていたことが分かりました。
なお、とりおざ氏に拠ると、本ページのキジラミは間違いなくトゲキジラミだそうです。
その様な訳で、応答が遅れました。ゴメンナサイ。
投稿: アーチャーン | 2012年2月25日 (土) 12時15分
いつもブログを楽しませていただいています。
今回、ここに載せられている内容を、私のブログでトゲキジラミの生活史について考える資料として使わせていただきました。また、この記事へのリンクもさせていただきましたので、併せてご了承ください。
投稿: そよかぜ | 2012年2月22日 (水) 23時12分