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2008年11月25日 (火)

シワバネキノコバエ(Allactoneura akasakana)?

 ハエやカの仲間には、実に多くの科があります。正体の分からない双翅目(蠅、蚊、虻)を撮ったときは、図鑑の標本写真と生態写真ではまるで違って見えることが多いので、普通は検索表を引きます。双翅目の検索には、翅脈と刺毛の生え方が重要です。翅脈と刺毛がキチンと写っていれば、科の検索は何とかなることが多いのですが、翅を畳んで留まる虫の場合は、幾ら写真が鮮明でも翅脈が良く見えないことが多く、科の検索は直ぐに行き詰まってしまいます。
 今日紹介する虫も、触角が長い(8節を越える)ので糸角亜目(蚊の仲間)であることはハッキリしていますが、翅を畳んで留まるので、科の検索は不可能です。こう言うときは、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」を頭から辿って行くことにしています。かなり時間はかかりますが、多くの場合、「コレだ!!」と言うのが見つかります。
 この虫も、「一寸のハエにも五分の大和魂」を辿った結果、キノコバエ科のシワバネキノコバエに酷似していることが分かりました。しかし、若干不明瞭な点があったので、御伺いを立ててみました。すると、何と九大名誉教授の三枝先生から、たちどころに御回答を賜りました。

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シワバネキノコバエ(A. akasakana)?
名前はハエでも蚊の仲間、見た感じは確かに蚊に近い
七丁目の家庭菜園で撮影(以下4枚目まで同一個体)
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/10/02)

 三枝先生(私が先生と言うのもおかしいのですが・・・)は、北隆館の「新訂 原色昆虫大図鑑第3巻」の該当部分を執筆された方です。先生のお話では、このキノコバエは、キノコバエ科のSciophilinae(亜科名、和名なし)に属するAllactoneura(シワバネキノコバエ属)の1種で間違いないそうです。しかし、これがシワバネキノコバエか否かについては、若干の問題があります。また、シワバネキノコバエの学名は、図鑑にあるものではなく、Allactoneura akasakanaが正しいとのことです。
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触角が8節以上あるのは蚊の仲間
幼虫は腐敗した植物質を餌にする
(2008/10/02)

 何が問題なのかと言うと、日本でハッキリと記録されているシワバネキノコバエ属はこのシワバネキノコバエのみですが、台湾には酷似するA. formosanaが居り、これが日本まで長距離移動している可能性が高いのです。しかも、このA. formosanaの記載は雌に基づいており、その雄と思われる個体には4つの型があって、日本のシワバネキノコバエ(A. akasakana)との関係はキチンと研究されていません。従って、日本産のシワバネキノコバエ属は、雄の交尾器をシワバネキノコバエ(A. akasakana)の記載と比較して一致すればシワバネキノコバエであると言えますが、それ以外の場合は良く研究されていない台湾のシワバネキノコバエ属かも知れず、或いはまた、新種の可能性もある訳です。
 写真では交尾器は比較出来ません。ここでは「シワバネキノコバエ(Allactoneura akasakana)?」とする以外に為す術が無い様です。
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真っ正面から見ると変な顔をしている
(2008/10/02)

 ところで、読者諸氏の中には、最初の方で「糸角亜目(蚊の仲間)であることはハッキリしています」と書いておきながら、キノコバエと言う名前に「ハエ」の付く虫だったことに疑問を感じられている方が居られるかも知れません。キノコバエは、名前に「ハエ」が付きますが、本当は蚊の仲間なのです。
 この様な紛らわしい名称は双翅目の中には沢山あります。○○キノコバエばかりでなく、タマバエ、カバエ、ケバエ、チョウバエも蚊の仲間で、また、ブユ(ブヨ)やヌカカも形はハエに似ていますが蚊の仲間です。
 アブとハエも混乱しています。オドリバエ、アシナガバエ等は「ハエ」と付いてもアブの仲間ですし、ハナアブ、ヒラタアブ(ハナアブ科です)、アタマアブ等は「アブ」の名があってもハエの仲間です。保育社の原色日本昆虫図鑑(下)では、これらの名称を分かり易い様に変更したのですが、普及しませんでした。
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斜めから見た図(2008/10/02)

 それでは、蚊、ハエ、アブは何処が違うのか、と言うことになると思いますので、その違いを一寸書いておきましょう。
 広義の蚊とは糸角亜目(長角亜目)に属す昆虫の総称で、触角が通常8節以上あります。これだけで決定的な決め手となります。体が細い、或いは、脚が長いこと等は、分類学では一切考慮されません。
 ハエとアブは短角亜目に属し、触角は基本的に3節です(例外的に第3節が幾つかに分節する場合があります)。ハエと総称される昆虫の蛹は環状の部分から成っており、羽化するときにはこの輪に沿って蛹が横に割れます。蛹の縫い目が環状になっているので、環縫短角群(環縫群)と名付けられています。このグループは、蛹になるときに脱皮せず、表皮が固まって俵の様な囲蛹と呼ばれるものになり、その中で蛹化します。
 アブと呼ばれる虫の場合は、他の完全変態する普通の昆虫と同じく、羽化の際に蛹の背中が縦に割れます。蛹の縫い目が真っ直ぐになっているので、分類学では、直縫短角群(直縫群)と呼ばれています。この連中の蛹は、実物はまだ見たことが無いのですが、普通の昆虫の蛹の形をしています。
 お解り頂けたでしょうか?
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「3丁目緑地」で撮ったキノコバエ.毛の生え方は異なるが
多分上と同じ種類(2008/11/13)

 最初の4枚の写真は七丁目の家庭菜園で撮ったもので、全て同一個体の写真です。此処まで書いたところで、これらとは別に先日「三丁目緑地」で撮った同じ種類と思われるキノコバエの写真を調整しました。すると、上の4枚の写真とは異なり、かなり体に毛が生えています。別種かも知れません。そこでまた、「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立てることと相成りました。何しろ、この属は日本ではまだ1種しか記録されていないのです。
 暫くして、また、三枝先生から御回答を賜りました。やはりこの仲間の種の識別には雄の交尾器を見る以外に確実な方法はないとのお話です。双翅目の毛も、鱗翅目(蝶、蛾)の鱗粉の様に脱落することが多く、毛の有無は基本的な判断材料にはなら無い様です。別種の可能性も否定はできませんが、そうであればどちらかが未記載種と言うことになります。恐らくは、同一種で毛の脱落の程度が異なるだけなのでしょう
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横から見ると胸部の背に沢山毛が生えているのが分かる
(2008/11/13)

 一昨日、昨日と連続で、久しぶりに七丁目の家庭菜園に行って来ました。隣との境に菊の花が沢山咲いていて、これに色々なアブやハエがやって来ているのです。かなりの多くの種類を撮りました。微小なハエが多いのですが、中々綺麗なものもあります。種の判定にかなり時間が掛かると思いますが、今後少しずつ紹介して行きたいと思います。

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