カテゴリー「昆虫(双翅目) 」の12件の記事

2009年4月14日 (火)

お知らせ+シマバエ科のProtrigonometopus maculifrons

 明日(平成21年4月15日)より東南アジア方面に2ヶ月程度出張致します。その準備や何やらでこの1ヶ月ほど非常に忙しく、更新はおろか写真を調整する時間もありませんでした。
 結果として、このWeblogもその間暫く御休となります。春に撮った写真がまだ沢山残っているのですが、致し方ありません、来年の春にでも回すことにしましょう。
 写真が無いのも寂しいので、昨年の晩秋(12月4日)に撮ったシマバエ科(Lauxaniidae)シマバエ亜科(Lauxaniinae)のProtrigonometopus maculifronsの写真を出しておきます。撮影したのは「三丁目緑地」の上面にあるシャクチリソバの群落で、時刻は16:21、東京のこの日の日没は16:28分なので、日没直前です。もうかなり薄暗くなっており、虫が良く見えなかったのですが、撮影した写真を見てみると中々綺麗なハエです。ハエは複数居たにも拘わらず、使える写真はこの1枚しか無かったので、その後買い物がてら2~3日様子を見に行ったのですが、再度見付けることは出来ませんでした。

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シマバエ科のProtrigonometopus maculifrons
(クリックで拡大表示)
(2008/12/04)

 このWeblogとしてはやや大きめのハエで、体長は4mm、翅端まで5.5mm。頭部の剛毛配列や脛節端に剛毛を持つことから、シマバエ科であることは明らかです。しかし、その先は良く分かりませんでした。脛節端付近に2本の剛毛を持つのでHomoneura属かと思ったのですが、背面からの写真1枚では良く分かりません。そこで、何時も御世話になっている双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみました。すると、市毛氏より、このハエはProtrigonometopus属の様で、日本産Protrigonometopus属の種類数や分布から、Protrigonometopus maculifronsではないか、との御回答を頂きました。
 氏によると、「恐らく,北海道~本州に分布しているのは、P. maculifronsP. sexliturisの2種」で、「P. maculifronsは頭部が三角形に近く,触角刺毛は黒色微毛を装い太く見え」、「顔の中央部に1対の大きな斑紋を備え」ており、「日本,北朝鮮,中国に分布、皇居でも確認されている」とのことです、一方、P. sexliturisの方は、頭部が三角形状ではなく、触角刺毛は肥大せず、また、顔の両側には1対の小さな斑紋,触角下部と口器上部にも1対の斑紋を備え、沿海地方と日本に分布するのだそうです。
 写真のハエは、触角刺毛が太いですし、東京付近ではP. maculifronsの記録が彼方此方にあるのに対し、P. sexliturisは全く見つかりませんでした。どうやらこのハエはP. maculifronsで決まりの様です。

 それでは皆様、暫くの御無沙汰となります。春の天候は気まぐれですので、御風邪等召されぬ様、何卒御自愛下さい。

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2009年3月29日 (日)

ヒゲユスリカ族(Tanytarsini)の1種

 この春撮った虫の写真はまだあるのですが、調整が出来ていません。そこで、昨年の1月に撮影した越冬中の虫を出すことにしました。
 この虫、何故今まで掲載しなかったのかと言うと、長い間正体不明だったからです。最初見付けたのは「三丁目緑地」に生えているヤツデの葉裏で、体長約2mmの小さな虫がワサワサと這い回る感じで歩いていました。マクロレンズで覗いた最初の印象は、非常に長い前脚を触角と見間違えたせいもあり、奇怪な格好をした捕食性の虫と言う感じでした。この時は直ぐに逃げられてしまったので、充分写真を撮ることが出来ませんでした。

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ヒゲユスリカ族の1種.前脚が非常に長い
ヤツデの葉裏に居た.体長は2mmと小さい
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/01/11)

 数日後に、同じく「三丁目緑地」のビワの葉裏で同種と思われる虫を見付けました。この時はシッカリ撮ることが出来たのですが、毛の生えた翅、翅よりも短く太い腹部、異常に長い前脚・・・、一体何者なのか全く分かりません。目(分類学の目、綱の下、科の上)のレベルで分からないと言う最悪の事態に陥ってしまいました。
 しかし、良く見てみると、横からみた頭部胸部はガガンボなどに似ており、また、平均棍を持っています。触角は明らかに3節を越えていますから、双翅目糸角亜目(広義の蚊の仲間)であることは確かの様です。しかし、その先の科の検索は、虫が小さ過ぎることと翅に毛が生えていて翅脈が良く見えないことにより、全く不可能でした。
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ビワの葉裏を歩き回るヒゲユスリカ族の1種
翅にストロボの光が反射して構造色を生じている
上の写真とは別個体で別の日に撮影
(2008/01/14)

 ほぼ1年経ってから、「ユスリカの世界」と言う本を見たところ、どうもこれはユスリカ科(Chironomidae)の虫の様に思われてきました。しかし、「ユスリカ科」で検索しても此処に掲載した写真と似た様な虫は見当たりません。そこで「Chironomidae」で海外の写真を探してみると、Tanytarsus pallidicornisと言う、掲載の写真に非常に良く似たユスリカが見つかりました。Tanytarsusの和名はヒゲユスリカ属です。
 しかし、「ユスリカの世界」のヒゲユスリカ属の解説を読むと、此処に掲載した写真の虫とは一寸違う様です。そこで、もう一度この本にあるユスリカ科の検索表を辿ってみると、かなり怪しげですが、ユスリカ亜科(Chironominae)のヒゲユスリカ族(Tanytarsini:ヒゲユスリカ属Tanytarsusより一つ上のレベル)に属す可能性が高い様に思われました。
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上の写真と同一個体(以下同じ)
前から見ると変な顔をしている
(2008/01/14)

 次は、例によって双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に、ヒゲユスリカ族の1種ではないか、との御伺いを立てることと相成ります。
 すると、たちどころにユスリカの専門家であるエリユスリカ氏より、「写真からの判定では、ヒゲユスリカ族の一種までしか判りません。(中略)。残念ながらヒゲユスリカ族には外見では属までは識別するのは困難です。雄生殖器を見れば一瞬で属までは判るのですが。色彩も似たものが沢山います。黄白色のものが殆どです」との御回答を得ました。
 これで、漸く「ヒゲユスリカ族の1種」と安心して書くことが出来ます。これもみな、エリユスリカ氏の御蔭です。
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斜め前から見たヒゲユスリカ族の1種
平均棍が良く見える
(2008/01/14)

 このヒゲユスリカ、越冬中の個体は少なく、この2頭しか見ることが出来ませんでした。しかし、5月中下旬に「三丁目緑地」と「三ツ池緑地」内の草むらを歩いたところ、今度は正にウンカが沸き上がるが如く沢山出て来ました(同種か否かは分かりませんが、外見的には同じでした)。冬とは違い非常に機敏で、葉に留まるや否やアッと言う間に葉裏に逃げ込んでしまいます。かなり粘ったのですが、まともな写真は1枚も撮れませんでした。
 先のエリユスリカ氏の御話では、「5月頃にヒゲユスリカ属[族?]は水田脇の水路、溜め池等から非常に沢山出てきます。平地ではこの時期がこの族のピーク期です」とのことですから、この点でも一致しています。
 この2つの緑地には何れもかなり水量のある泉があります。どうやら、そこから発生している様です。
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横から見ると頭部胸部はガガンボなどと似ている
翅の上に毛が生えているのが見える
(2008/01/14)

 釣りの餌にする赤虫は、主にアカムシユスリカの幼虫です。このアカムシユスリカやオオユスリカ、セスジユスリカなどは1cmかそれ以上もある大型のユスリカです。しかし、ユスリカ科には2mm以下の小型の種類も沢山います。Web上にあるユスリカの生態写真と言えば大型のユスリカばかりで、今日紹介した様な小型種の写真は皆無に近い状態です。写真から種まで落とすのは、ユスリカの場合、通常は無理ですが、族や属のレベルまでなら何とかなるかも知れません。これからは、ユスリカ類の写真も撮ってみようかと思っています。

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2009年3月22日 (日)

ビロウドツリアブ

 好天が続いているので、脚力を付けるのを兼ねて、毎日写真を撮りに出ていました。考えてみると、毎年この頃は東南アジアに居るか、或いは、その準備や事後の整理で忙しく、一度もこの時期の動植物は紹介していませんでした。特に植物は、様々な可憐な雑草が咲いているのですが、これらがこのWeblogから全く抜けています。それを補う意味で、この数日は植物をかなり色々撮りました。
 しかし、虫の方も漸く越冬個体ではない、春に羽化した虫達が出現して来ました。今日はその中から、最も春らしい虫、ビロウドツリアブ(Bombylius major)を紹介します。長い口吻を持ち、ビドウドの様な長毛に包まれた、剽軽な雰囲気のアブです。1年の内で早春にしか出現しません。虫をある程度知るものにとっては、ギフチョウやコツバメと並ぶ、春の象徴とも言える存在です(因みに、この辺りにはギフチョウは勿論、コツバメも居ません)。

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草の上で休むビロウドツリアブ(雌).これ以上近づけなかった
小さく写っているのを無理に拡大したので少し荒れている
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2009/03/19)

 ビロウドツリアブはツリアブ科に属します。九州大学の日本産昆虫目録に拠ると、ツリアブ科は6属21種が記録されており、その内Bombylius属は4種で、本州にはその4種の何れもが棲息しています。
 最近はどうも双翅目(蚊、アブ、ハエ)となると、種の判別に関して疑心暗鬼になってしまい、本当にビロウドツリアブなのかが心配になってきます。しかし、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」を運営している「ハエ男」氏のサイトにあるビロウドツリアブの写真と酷似していること、東京都本土部昆虫目録にはBombylius属はビロウドツリアブ1種しか載っていないこと等から、ビロウドツリアブとして問題ないと思います。
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石の上に留まるビロウドツリアブ
左右の複眼が接しているので雄
(2009/03/21)

 空中静止を得意とするアブです。見えない糸でつり下げられた様に見えるので、ツリアブと名が付いたのだそうです。
 留まるのは草や地面の上が多い様ですが、下の写真で示した様にボケや、また、先日紹介したオオイヌノフグリの花に来ていることもありました。ボケの花に来ているところを良く見ると(他に数枚の写真あり)、口吻の先は奥の蜜線へではなく、雄蕊の先端付近で留まっています。吸蜜ではなく、花粉を食べ(唾液を出して溶かしてから吸う)に来ているのかも知れません。
 「The European Families of the Diptera(欧州産双翅目の科)」と言う本を見たら、成虫雄は密を吸い、雌は花粉を食べるのが普通と書かれていました。ボケに来ているのは雌(複眼の間隔が広い)ですから、やはり、花粉目当てで正しい様です。雌は、卵を成熟させる為に、蛋白質の多い餌を必要としているのです。
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ボケの花で花粉を食べるビロウドツリアブの雌
雌は左右の複眼間が広く空いている
(2009/03/21)

 この双翅目の本に拠ると、ツリアブ科(Bombyliidae)の幼虫は、寄生性ないしは捕食性で、多くはハチ類に寄生するとのことです。内部寄生ではなく、巣の中の卵や幼虫を食べ尽くす方式です。他に、蜘蛛やバッタの卵塊を食べるもの、土中の蛾や甲虫の蛹等に寄生する種類もあるそうです。
 なお、保育社の図鑑には、ビロウドツリアブの幼虫はヒメハナバチ科の幼虫に寄生すると書かれています。
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斜め前から見たビロウドツリアブの雌
上と同一個体と思われる.一見ヘタって見えるが
非常に敏感、この後直ぐに逃げられてしまった
(2009/03/21)

 撮影したのは、四丁目の国分寺崖線下です。この数日中に何度も見たのですが、非常に敏感で容易に近づけませんでした。空中静止をしているところを含めて、もう少し色々な角度から撮りたかったのですが、諦めてこの辺りで掲載することとしました。姿の珍妙な虫なので、後でもっと良い写真が撮れたら、その時また掲載し直すことにしましょう。

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2009年3月 8日 (日)

シマバエ科の未記載種(その2:Steganopsis sp.2

 今日は以前から予告していたシマバエ科の未記載種、「埼玉県昆虫誌」でSteganopsis sp.2とされているハエを紹介します。S. sp.1の方は既に掲載済みです。
 尚、このハエに関する情報は、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」から得たものです。私自身は、未だに「埼玉県昆虫誌」を持っておりません(一寸高いので・・・)。

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シマバエ科の未記載種Steganopsis sp.2
黄色い菊花に来ていたので黄色カブリで色調が少し変
色が黒くて背が丸く、遠くから見ると甲虫の様
翅が下側に急角度で曲がる点はカスミカメムシ的
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/25)

 撮影したのは先日のSteganopsis sp.1と同時同所で、昨年の11月25日に七丁目の第1家庭菜園(世田谷区ファミリー農園)の縁に植えられている菊の花に来ていました。残念ながら黄色い菊に留まっていたので、写真は黄色カブリを起こし、色調が少し変になっています。sp.1の方はこの時期に何度か見付け、赤い花にも来ていたので綺麗な写真も撮れましたが、このsp.2は、写真の黄色い菊花に来ていた1頭1度だけで、色調の良い写真は遂に撮れませんでした。
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真横から見たSteganopsis sp.2
シマバエ科のハエでは、触角は有毛で
前腿節下面に剛毛列がある
(2008/11/25)

 sp.1は褐色を基調とし、胸部背面に筋があり、京劇役者の化粧の様な赤、黒、白の派手な顔をしていました。中々の美麗種と言えますが、このsp.2の方は頭部を除いて殆ど真っ黒で、余り綺麗とは言えません。しかし、頭頂から顔面にかけてはやや黄色みを帯びた白色をしており、複眼は茶色の様に見えます。複眼の中に見える青や黄~赤色の模様は、ストロボ光の反射による構造色で、本来の色ではありません。
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斜め前から見たSteganopsis sp.2
額と顔面の大部分はは黄味を帯びた白色
真っ正面からは遂に撮れなかった
(2008/11/25)

 体長は、写真に見られる様な体を丸めた状態で、約3mmです。伸ばせばもう少し大きくなると思います。しかし、こう言う場合、何方を取るべきなのか、私には良く分かりません。「みんなで作る双翅目図鑑」にアノニモミイア氏提供の本種の標本写真が出ていますが、やはり、体は丸まった儘です。この標本写真を見ると、翅は少し赤みを帯びた黒色をしており、前縁部で特に色濃くなっています。
 大きさも色も体の輪郭も、少し遠くから見ると、やはり菊の花に来ていたルリマルノミハムシと間違えそうです。
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単眼域と額眼縁剛毛の基部は黒い
(2008/11/25)

 写真を見た限りでは、このsp.2も先日のsp.1も、何となく頼り無く鈍感な感じがします。しかし、実際は非常に敏感です。花に留まって食事中だったので写真をシッカリ撮ることが出来ましたが、草の上などに居るときは直ぐに逃げられてしまいます。
 sp.1は一度我が家の庭で見たことがあります。当然写真を撮ろうとしたのですが、アシナガキンバエマダラアシナガバエと同様、ストロボ光の増光に反応してストロボが充分明るくなる前に逃げてしまい、写真には葉っぱしか写っていませんでした。
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花弁の表から裏に回るSteganopsis sp.2
何となくぎこちない感じがするが実際は敏捷
(2008/11/25)

 未記載種と言うことは、まだこのハエを正式に記載した論文が無い、従って学名もないと言うことです。この様なまだ名前のない虫が、成城の様な都会の住宅地にも居ると言う事実は、一般の方には些か不可解なことかも知れません。しかし、双翅目(蚊、虻、ハエ)やその他の微小な昆虫では極く普通のことで、この辺りにもまだまだ未記載種がいる筈です。
 先日紹介したトガリキジラミの1種(その2)も、キジラミの研究をされているとりおざ氏によると、未記載種だそうです。
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本種の写真はWeb上に多くないので沢山貼っておく
黄色カブリで色調がおかしいのが何とも残念
(2008/11/25)

 しかし、未記載種と言っても、決して珍種なのではありません。このsp.2の方はやや少ないらしいですが、sp.1の方は普通種と言ってよく、このWeblog以外にも幾つかのサイトで紹介されています。
 普通種であるにも拘わらず、未だに記載されていないのは何故かというと、それは分類を担当する研究者の数が絶対的に不足しているからです。
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オマケその1(2008/11/25)

 北隆館の新訂原色昆虫大圖鑑第3巻にある双翅目の解説に拠ると、その時点(発行は平成20年)での日本産双翅目昆虫の総数は約5,400種ですが、未開拓の分野が多いので、将来的には約10,000種に上るであろう、とのことです。まだ、未記載種や未記録種が5,000種近くもあると言うことです。
 一方、研究者の数の方はどうかと言うと、「一寸のハエにも五分の大和魂」に九大名誉教授の三枝先生が「10年ほど前には10数名の双翅類分類学者が大学や博物館に在籍していたのですが,現在は1/3以下の数になってしまっています」と書かれている様に、甚だ寂しい状況です。数名の研究者で約5,000種を記載するのは、明らかに不可能です。
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オマケその2(2008/11/25)

 何故研究者が少ないかと言えば、それは分類学が地道で目立たない学問だからでしょう。本来、分類が正しく出来ていなければ生物学のあらゆる分野は科学として成り立ち得ないのですが、学生は電子顕微鏡、超遠心分離器、DNA自動分析機、高性能ガスクロマトグラフィーその他の最新鋭の機器を使ったカッコイイ分野に進みたがります。また、日本では一般に分類学を軽視する傾向がある様です。
 今の内に大学や関連する研究所で若い分類学者をもっと沢山育てる様にしないと、やがて日本は同定を外国に依頼しなければならない分類学後進国になってしまいます。

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2009年3月 3日 (火)

シマバエ科の未記載種(Steganopsis sp.1)(その2)

 昨年の夏に、「三ツ池緑地」で撮影した「シマバエ科の未記載種(Steganopsis sp.」を紹介しましたが、その時は直ぐに逃げられてしまい、写真は2枚しか有りませんでした。しかしその後、11月の下旬に七丁目の家庭菜園(世田谷区ファミリー農園)でこのSteganopsis sp.を何回か見付け、幸いシッカリ写真を撮ることが出来ましたので、もう一度掲載することにしました。

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シマバエ科の未記載種(Steganopsis sp.1
2種あるSteganopsis属未記載種の内、埼玉県昆虫誌で
sp.1とされている種類.褐色を基調とし背中に縦縞がある
黄色い菊花に居たので色カブリで色調が変になっている
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/25)

 既に紹介したセンダングサケブカミバエノゲシケブカミバエヒゲブトキモグリバエ?などと同じく、「ファミリー農園」の端に植えられている菊の花に来ていました。
 惜しむらくは、黄色い花が多いので、その場合は黄色カブリの写真となり、色が少しおかしくなっています。赤や青の花ならばこうはならないのですが、黄色カブリの場合はどうにも色補正が出来ません。
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複眼がストロボの反射で複雑な色を呈している
(2008/11/25)

 このシマバエ科のSteganopsis sp.は、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に拠れば、埼玉県昆虫誌に2種載っているSteganopsis属の未記載種の内、S. sp.1とされている種類です。体長3mm強、翅端まで4mmと小さいので、肉眼的には殆ど黒く見えますが、拡大してみると焦げ茶色の部分が多く、背中には縦筋が数本あり、頭部には独特の模様が有ります。また、胸側上側にある象牙色に近い顕著な白帯が目立ちます。複眼は本来は赤い様ですが、ストロボの反射で複雑な構造色を生じています。
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Steganopsis sp.1の顔.何とも派手な色彩
恰も京劇役者の如し(2008/11/26)

 前回の写真は何れも斜めからでよく顔が見えませんでしたが、今回は真っ正面からも撮ることが出来ました。顔の左右に白で縁取られた黒斑が1対、また、頭頂の単眼部も黒くなっています。白と黒と複眼の赤で、まるで京劇役者の化粧の様な配色です。こんな派手な顔をしたハエは他にいないのではないかと思います。
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身繕い中に体を浮かせた瞬間.撮る機会の非常に少ない格好
(2008/11/26)

 Steganopsis属は、九州大学の日本産昆虫目録には1種も載っていません。しかし、「一寸のハエにも五分の大和魂」と同じ運営者による日本産双翅目目録には3種あり、この内の2種はつい最近、10年ほど前に記載された種です。その他にまだ未記載種が2種あるのですから、双翅目(蚊、アブ、ハエ)と言うのは如何に未開拓の部分が多いグループであるかが分かると思います。
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普段はこう言う格好をしている
(2008/11/26)

 シマバエ科やSteganopsis属の特徴などは、既に掲載した「シマバエ科の未記載種(Steganopsis sp.」に書きましたので、此処では省略します。
 正面から撮った顔写真をもう1枚貼っておきます。これはF11(等倍撮影時の実効絞り値なので、レンズ焦点距離に対する本体の絞り値は1/2の5.6)で撮影したものです。他の写真よりも拡大率を大きくしてあるので少し荒れて見えますが、等倍接写の解像力としてはこれが普通の100mmマクロレンズの限界でしょう。このレンズの場合、F11(F5.6)辺りが一番解像力が高いのですが、焦点深度は非常に浅くなることがお分かり頂けると思います。焦点が合っているのは顔だけで、触角も頭部後方の剛毛もボケています。焦点深度は多分0.5mm以下でしょう。野外では普通実用にならないのですが、膝をついて撮影することが出来たので、何とかモノにすることが出来ました。
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正面からもう1枚.F11での極限撮影?
(2008/11/26)

 実はこの時、埼玉県昆虫誌にSteganopsis sp.2として載っているもう一方の未記載種も撮影することが出来ました。次回はこの「sp.2」を紹介することにします。

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2009年2月25日 (水)

シナホソカトリバエ(Lispe sinica

 昨年の晩秋に、かなり沢山のハエを撮ったせいで、ハエの写真が溜まっています。そこで今日もハエを紹介することと相成りました。
 シナホソカトリバエ(Lispe sinica)です。撮影したのは、先日のヒメフンバエやウスイロアシブトケバエ()(これはハエと付いても蚊の仲間)と同じく、「三丁目緑地」の上部に群生しているシャクチリソバの葉上です。体長約5mm、翅端まで6.5mmですから、ハエとしてはやや小さめと言えますが、このWeblogで最近紹介しているハエと較べるとかなり大型です。

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シナホソカトリバエ(Lispe sinica).イエバエ科に属すが
M1脈(下端右から前縁脈を除いて3本目の翅脈)が真っ直ぐ
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/13)

 イエバエ科に属しますが、衛生害虫として有名な「イエバエ」とは随分形が違っています。これが双翅目の困ったところで、1つの科に属するにも拘わらず、様々な外見の種類が居ます。
 特にイエバエ科の場合は、このシナホソカトリバエの様にM1と呼ばれる翅脈(上の写真参照)が真っ直ぐな連中と、ニクバエ科やヤドリバエ科(例えば「アシナガヤドリバエの1種」)の様に前方に強く曲がる仲間の両方が居ます。
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腹側板(前肢と中肢の間)に3本の剛毛があるのだが
写真の解像度が低くて些か分かり難い
前脛節の中程に後ろ向きの剛毛がある
(写真を拡大して見て下さい)
(2008/11/10)

 イエバエ科に至るまでの検索や、その下の亜科や属の検索には、写真には写り難い(中肢や後肢の腿節で隠れてしまう)翅や胸弁の下側にある剛毛の有無やその数が問題になることが多く、ここに掲載した写真からは良く検索が出来ませんでした。こう言う場合は、WEB上にあるハエの写真を探して、似たような種類を見付ける以外に手がありません。
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小顎鬚(頭部の下に見える1対の構造)は幅広く黄色
(2008/11/13)

 探してみると、カトリバエの仲間によく似ていました。そこで、次は双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」でカトリバエの詳細な写真を探すことになります。この掲示板にはワード検索がありますので、直ぐに幾つかの生態写真や標本写真が見つかり、その内のシナホソカトリバエと非常に良く似ていることが分かりました。特に、Acleris氏が出されている標本写真と較べてみたところ、頭部、胸部、脚の剛毛は基本的に一致している様に見えました。しかし、双翅目に関して恐ろしいのは「他人の空似」です。
 イエバエ科に関しては「日本のイエバエ科」と言う文献があります(色々問題が指摘されていますが・・・)。亜科や属の検索は写真からでは無理でしたが、カトリバエ(Lispe)属内の検索では、些か怪しげですが、シナホソカトリバエに落ちました。
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解像度が低くて、翅の下の剛毛が良く見えない
(2008/11/10)

 そこでまた、この掲示板に御伺いを立てることと相成ります。するとたちどころにアノニモミイア氏より「ほぼ間違いなくシナホソカトリバエでしょう」との御回答を得ました。氏はその後、5枚もの同定の決め手となる詳細な標本写真を載せて下さいました。これらの写真と比較した結果、また、東京都本土部昆虫目録を見るとLispe属はシナホソカトリバエとトウヨウカトリバエの2種しか記録が無いことから、このハエはシナホソカトリバエとして問題ないものと判断しました。
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最初の写真とほぼ同じだが、横線前背中剛毛は明らかに1本
(2008/11/10)

 カトリバエとは「蚊取蠅」の意で、「日本のイエバエ科」に拠れば、この属(Lispe)の仲間のあるもの(成虫)は、蚊の幼虫、蛹、或いは、羽化してきた成虫を食べる肉食で、幼虫は水棲とのことです。
 また、成虫は海、汽水、川などの縁に普通に見られる、とあります。「三丁目緑地」に沢山いたところを見ると、このシナホソカトリバエは、緑地内に2個所ある清水から発生している可能性が大です。
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オマケにもう1枚(2008/11/13)

 このシナホソカトリバエ、11月の10日頃には非常に沢山いたので、後で撮ればよいと思い余りキチンと撮りませんでした(絞りを絞って深度を深くして撮ってあるので、解像度が低い)。しかし、22日に行ってみたところ、何と、1頭も見られませんでした。御蔭で解像度の高い写真が無く、剛毛の有無が分からなくて苦労しました。
 これに懲りて、その後はもう少し絞りを開けて解像力を上げて撮る様にしています(焦点深度が浅くなるので撮影は難しくなる)。既に紹介済みのセンダングサケブカミバエノゲシケブカミバエヒゲブトキモグリバエ?キタモンヒゲブトキモグリバエ等は、体長はこのシナホソカトリバエよりずっと小さいにも拘わらず、かなり高解像度で撮ってあるので、それなりに鮮明に写っています。

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2009年2月22日 (日)

ノゲシケブカミバエ(Ensina sonchi

 このところ雑用が多く、気が付くと4日も更新を空けていました。今後も暫く忙しい日が続くと思いますので、更新の頻度は以前よりかなり落ちるかも知れません。
 今日紹介するのは、ノゲシケブカミバエ(Ensina sonchi)、以前掲載したセンダングサケブカミバエと同じく、ミバエ科ケブカミバエ亜科(Tephritinae)に属します。体長は3.5mm弱、翅端まで4.5mm強ですから、かなり小さめのハエと言えるでしょう。
 居たのもセンダングサケブカミバエと同じく、七丁目の家庭菜園(世田谷区ファミリー農園)に植えられている菊花の上で、時期も同じ11月下旬です。

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ノゲシケブカミバエ(Ensina sonchi).青い綺麗なミバエ
ミバエとしては翅の模様が少ない
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/26)

 一応ミバエ科に属すところまでは自分の力で何とか分かりました。しかし、その先の検索表は手元にありません。北隆館の図鑑にはミバエ科はかなりの数載っているのですが、該当する種は見当たりませんでした。そこでまた、双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」の御世話になることと相成ります。
 すると、北大のウミユスリカ氏から、頭部の形態や翅の斑紋など、ノゲシケブカミバエEnsina sonchi (Linnaeus, 1767)によく似ている、との御回答を頂きました。しかし、この写真のミバエのR2+3脈には、下に矢印で示した様な小さな枝があります。これは、ノゲシケブカミバエには本来ない筈のものだそうです。氏のお話に拠れば、「イエバエ科などでも個体変異で一部の個体に(しばしば左右不相称に)出現することがありますので、その手の形質かもしれません」とのことでした。
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R2+3脈に枝がある(白矢印).前縁脈はSc脈の終点と
h脈の直後の2個所に切れ目がある.少し翅を拡げているので
翅脈が見易い(写真をクリックして拡大して見てください)
(2008/11/26)

 このEnsina属には、九州大学の日本産昆虫目録やそれよりも新しい上記BBSと同じ運営者による日本産双翅目科一覧でも、ノゲシケブカミバエEnsina sonchi1種しか居ません。R2+3脈に枝があってもノゲシケブカミバエとして良いと思いますが、ウミユスリカ氏は「専門家といっても私の畑はむしろ生態学分野ですし、研究対象として主に触れているのはニクバエ科、クロバエ科、イエバエ科といった有弁類です。(中略)私の写真からの同定は、まだまだ誤同定の危険をはらんでいることをお含みください」と附記されております。
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上より3日前に撮った写真.やはりR2+3脈に枝がある
(2008/11/23)

 このR2+3脈の枝は、2番目の26日に撮った写真ばかりでなく、23日の写真(上)にも見られます。2日置いて同じ個体を撮影したのか、それとも、この辺り(東京都世田谷区西部)のノゲシケブカミバエには、一般にR2+3脈に枝があるのか、興味のあるところです。後者であれば、新変種、或いは、新種の可能性もあります。今年の同じ時期に、今度はカメラだけでなく、ネットも持って出掛ける積もりです。
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真横から見た図.お尻の先端が筒状になっていないので雄
(2008/11/23)

 ノゲシケブカミバエは、ノゲシ類(例えば、ノゲシ)の花(頭花)潜り込んで、その中で生長するそうです。外国のサイトなどでは「a gall fly」と書かれているので虫えいを作る様ですが、全農教の「日本原色虫えい図鑑」には載っていません。
 種名のsonchiは、ノゲシ属のsonchusを形容詞形にしたものでしょう。英語圏では、一般にsonchus flyと呼ばれています。
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オマケにもう1枚.正面からは遂に撮れなかった
(2008/11/26)

 ノゲシケブカミバエは、調べてみると、北隆館の図鑑にチャンと載っていました。しかし、色の記載はかなり異なっています。ここに掲載した写真は、撮ったとき肉眼的に非常に鮮やかな青に見えたので、それに合わせてかなり色温度を低く現像してあります。或いは、実際の色はそれ程青くはなく、青みがかった暗灰色程度であったのかも知れません。また、図鑑の方も、褪色した標本を見て記載した可能性が零ではありません。
 何分にも周りが黄色一色ですから、人間の眼は補色を強く感じる筈です。一方、カメラの方も「黄色カブリ」を起こしますし、また、その時々でかなり色にムラがあり、色温度を一定にすると明らかにおかしな色になってしまう場合があります。実際はどんな色をしていたのか・・・、中々難しい問題です。

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2009年2月17日 (火)

ヒメフンバエ(雌)

 ハエと言うと、一般的にはやはり汚い虫の代表の様に思われていると思います。しかし、これまでこのWeblogで紹介してきたハエは、中には食性不明の種もありますが、基本的に汚いハエではありません。しかし、今日紹介するのは、その名もフンバエ(糞蠅)科に属すヒメフンバエ(Scathophaga stercoraria)です。撮影したのは、ワカバグモカシヒメヨコバイや先日のウスイロアシブトケバエ()などと同じく、「三丁目緑地」の上部にあるシャクリチソバの群落の中で、時期もそれらと同じ昨年(2008年)の11月の中頃です。この個体は雌ですが、雄は黄色の長毛に被われていて、一見別種の様に見えます。体長は1cm前後、今までこのWeblogで登場したハエとしては大きい方に属します。

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ヒメフンバエ(Scathophaga stercoraria)の雌
脚が太く、強力な剛毛が沢山生えている.成虫は補食性
腹胸側剛毛が1本しかない
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/10)

 「フンバエ」の名が付くハエは、フンバエ科以外にもイエバエ科のチビフンバエ属2種があり、また、別にフンコバエ(糞小蠅)科(旧称ハヤトビバエ科)と言う科もあります。名前の通り、これらの幼虫の多くは糞、或いは、堆肥や汚水等、「糞」に縁のある場所に発生します。
 このヒメフンバエも幼虫は糞食です。この辺り(東京都世田谷区西部)に存在する糞と言えば、猫か犬のもの位しか考えつきませんが、まァ、そう言うところから発生しているのでしょう。
 しかし、このヒメフンバエ、糞食にしては?随分ガッチリしており、強そうです。実際、幼虫は糞食でも、成虫は補食性で、他の小型のハエや蚊などを捕まえて食べるのだそうです。
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正面やや斜めから見たヒメフンバエ.
(2008/11/10)

 和名ばかりでなく、属名のScathophagaも「糞食」の意です。しかし、正しい綴りは"Scatho"ではなく、"Scato"の筈です。そこでScatophagaで検索してみると、Scathophagaで検索したのとほぼ同数がヒットします。何方が正しいのか、私に分かるはずもありません。そこで、例によって双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみました。
 早速、学名の由来にも詳しいアノニモミイア氏より詳細な御回答を頂きました。それに拠ると、ヒメフンバエ属を創設したのはMeigen(1803)で、記載論文を書いたときに綴りを間違えてScathophagaとしてしまいました。後にこの誤りに気付き、Meigen自身もその他の研究者も「h」の入らないScatophagaを用いていましたが、フンバエ科の学名はScathophaga属を模式属としたScathophagidaeですから、科名も同様に「h」を取り去ってScatophagidaeとすると、今度は、既にScatophagus(クロホシマンジュウダイ属)から作られたScatophagidae(クロホシマンジュウダイ科)と重複してしまいます。従って、科名の方はScathophagidaeから「h」を取り除くことが出来ません。Scathophagidaeの模式属がScatophagaでは、科名と模式属で綴りが一致せず、おかしなことになってしまいます。そこで現在では、最初の記載に戻り、科名と模式属の綴りが矛盾しないScathophagidae科のScathophaga属とするのが一般的になっているのだそうです。
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ヒメフンバエの顔.額に交叉剛毛がない
(2008/11/10)

 ヒメフンバエはこの辺りでは比較的珍しい種類ではないかと思います。虫が留まっていた位置の関係から、前と横からしか撮れませんでしたので、その後も何回かこのヒメフンバエを狙って「三丁目緑地」に出掛けたのですが、再度見付けることは出来ませんでした。それで、写真は3枚しかありません。

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2009年2月 6日 (金)

ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雄

 前回予告した通り、今日はウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雄を紹介します。
 撮影したのは前回の雌と同じく、「三丁目緑地」の上部にあるシャクチリソバが群落しているところで、日付も同じ昨年の11月10日です。雌を見たのは1回だけで、前回の写真は全て同一個体を撮ったものですが、雄は沢山居たので、今回の写真の個体は同一ではなく、3個体です。

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ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雄
全体に黒っぽく、複眼が大きい.体長7~8mm
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/10)

 ケバエ類では雄と雌の外見が大きく異なります(体長は殆ど同じで7~8mm程度です)。雌雄を別々に紹介することにした所以ですが、特に大きく違うのが頭部です。雌の頭は全体に小さくて上下の厚みがなく、また、複眼がかなり小さいのですが、雄の方は顔中眼だらけ、と言っても良いほど複眼が頭部の大部分を占めています。
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横から見た図.上とは別個体
後脛節端と第1付節が膨らんでいる
(2008/11/10)

 しかし、触角の長さや形は雌雄で殆ど変わらず、かえって雄の方が短い様に感じられる位です。
 触角は殆ど雌雄差が無く、雄の複眼だけが矢鱈に大きいと言うことは、屹度、雄は雌を捜すのにフェロモン等ではなく、視覚を用いているのでしょう。
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頭部胸部の拡大.最初の写真と同一個体.肩の隆起部は黄色
前脛節端にある外側の棘は内側の棘の3倍位の長さがある。
胸部の背面には黄色い軟毛が、また、胸部や腹部の側面には
白い長毛が密生している
(2008/11/10)

 また、写真でお分かりの通り、雌雄で色が違います。雌は全体として赤褐色で、頭部と脚の付節の先の方だけが黒っぽいのに対し、雄は黒を基調としています。但し、肩の隆起部は黄色をしており(写真をクリックして拡大して見て下さい)、また、腿節の一部や脛節は赤褐色を帯びています。
 拡大した写真で較べるとそうなりますが、肉眼で少し遠くから見た場合は、雌は茶褐色、雄は真っ黒と言う感じで、一寸同じ種類とは思えない位です。実を言うと、始めは別の種類だと思っていました。
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正面から見た図.頭部の殆どは複眼で、その下に
触角や口器がチョコッと付いている.上と同一個体
(2008/11/10)

 脚を細かく見ると、雌の前腿節はかなり太く頑丈そうですが、雄では余り太くありません。逆に後脛節の末端と第1付節は雄では強く膨らんでいるのに対し、雌では脛節の先端が一寸太くなっている、と言う程度です。
 また、雄では胸部から腹部の側面に白い長毛が密生しています。これらの特徴は、種の識別する際の重要な指標となります。
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同一個体を斜めから見た図.這いつくばった
感じで、全然格好良くない(2008/11/10)

 昆虫の雄と言うのは、一般に雌よりか弱い感じがすることが多いのですが、このウスイロアシブトケバエを含むケバエ類の場合はかなり極端です。雄には雌のような精悍さは微塵も感じられません(少し言い過ぎかな?)。
 ハラナガツチバチ類も、まだこのWeblogでは紹介していませんが、雌雄で形態が大きく異なり(例えばキンケハラナガツチバチの)、雌は大きく幅もあり堂々としているのに対し、雄は細く小さく臆病で直ぐに逃げてしまいます。見ていて「シッカリしろ!!」とどやし付けたくなる位です。
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別個体.何となく頼り甲斐のない感じ
(2008/11/10)

 ケバエ類の幼虫は一般に集団で腐植を食べ、時に数100匹位の固まりを作って移動し、それは相当にブキミな光景だそうです(Web上に沢山写真があります)。一度実物を見てみたいものだと思っていますが、このウスイロアシブトケバエは「三丁目緑地」にかなりの数居ましたから、運が良ければ小規模な群なら見付けることが出来るかも知れません。
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上と同一個体.脚が長くても格好良くない
(2008/11/10)

 ケバエ類の多くは春に羽化し、このウスイロアシブトケバエの様な晩秋に発生する種は些か例外的な存在です。昨年の春にもケバエ類は見ているのですが、どうせ撮っても種類が分からないだろうと思って撮りませんでした。
 今回、このウスイロアシブトケバエに関して御世話になった双翅目の相談室「一寸のハエにも五分の大和魂」でケバエ科のモノグラフを紹介して頂きました。ケバエ類は体長が比較的大きいので、この文献と更に1~2の追加文献があれば、写真だけからでも何とか種まで落とせるかも知れません。今春はケバエを見たら是非撮ろうと思っています。

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2009年2月 5日 (木)

ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雌

 以前、「シワバネキノコバエ(Allactoneura akasakana)?」を掲載した時、双翅目(アブ、ハエ、蚊)に属す昆虫の和名が混乱していると言う話をしました。ハエと名が付いているのに蚊であったり、アブとあるのにハエであったりする例が沢山あるからです。今日はその混乱している和名の1つであるケバエの仲間を紹介します。
 ケバエは「毛蠅」の意だと思いますが、ハエ(短角亜目環縫群)ではなく蚊(糸角亜目)の仲間です。一見したところアブかハエの様で蚊には見えませんが、原画を拡大して見ると触角は8節あります。短角亜目(ハエ、アブ)では触角は3節しかありませんから、これだけでハエではなく蚊の仲間であることが分かります。また、翅脈も、下の写真では分かり難いですが、ハエやアブとは大きく異なっています。
 今日紹介するのはウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)、体長は7~8mm、ケバエとしては中程度の大きさです。撮影したのは「三丁目緑地」の上部にあるシャクチリソバが群落しているところで、日付は昨年の11月10日です。雄は沢山居り、空中で数頭が雌の来るのを待機していたりしましたが、雌を見たのは1回だけでした。ケバエ類では、雌は雄よりもずっと個体数が少ない様です。
 この連中は雌雄で外観がまるで違うので、雄と雌を別々に紹介することにしました。今日は、先ず雌の方から。

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ウスイロアシブトケバエ(Bibio flavihalter)の雌
頭部は小さく、触角は短いが8節ある.中胸背に2黒条がある
雌の後脚第1付節は膨らまない
(クリックで拡大表示、以下同じ)
(2008/11/10)

 例によって種の識別には双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」の御世話になりました。この掲示板の古いログの中に、アノニモミイア氏がケバエで「前脛節端に棘があればBibio属」と言う意味のことを書かれているのを見付けましたので、北隆館の圖鑑でBibio属を調べたところ、11月に発生する種はウスイロアシブトケバエ唯1種だけでした。解説文を読むと、記載の殆どは一致したのですが、胸部は雌では全体赤褐色と書かれている点が一致しません。最初の写真で明らかなように、このケバエの中胸背には縦に2黒条があります。
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頭部と脚の先の方を除くと殆ど赤褐色
平均棍は黄色(2008/11/10)

 Bibio属は、九大の目録に拠ると本州に産するものが16~17種、東京都本土部昆虫目録には12種しか記録がありません。しかも、秋に発生する種は少ない様です。そこで、何とか種まで落ちないものかと、「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみました。
 早速、達磨氏より、前脛節内側の棘が小さく、後脚の第1付小節が膨らむこと(雄の場合)、平均棍が黄色く、体を覆う毛が白っぽいことからBibio flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)だと思います、との御回答を得ました。
 しかし、雌の中胸背にある模様の相違に関しては何も触れられておりません。
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正面から見ると中々恐い顔をしている
(2008/11/10)

 背中の模様は個体変異の範囲なのかと首を傾げておりましたところ、今度は、前述のシワバネキノコバエでも御世話になった三枝先生(九州大学名誉教授)から詳細な御説明を賜りました。Bibio flavihalter雌の胸部は、全面的に橙黄色ないし暗赤褐色のものから,この写真の個体に見られる様な暗条を生ずるものまでかなりの個体変異があり、北隆館の圖鑑(原色昆虫大図鑑の旧版及び新訂版)の解説文は、笹川満廣氏(京都府立大学名誉教授)が全面的に橙黄色をした個体に基づいた原記載に従って書かれたものなのだそうです。やはり、個体変異の範囲だったのです。
 また、三枝先生は、晩秋に発生するケバエとしては、本種の他に更に2種(+未記載種が少し)あることを付け加えておられました。
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前脚脛節端の棘が良く見える.第1付節は非常に長い
(2008/11/10)

 続けて今度はArge氏より、三枝先生も触れられていた論文「Hardy, D. E. & Takahashi, M., 1960. Revision of the Japanese Bibionidae (Diptera, Nematocera)[訳:日本産ケバエ科(双翅目、糸角亜目)の改訂]. Pacific Insects, 2(4): 383-449」がWeb上で公開されていることを教えて下さいました。
 今まで、迂闊なことに、学名の命名者や命名年に余り注意をしていなかったので気が付かなかったのですが、この論文を読んで見ると、何と、これはBibio flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)の原記載論文だったのです。三枝先生は、チャンと「Bibio flavihalter Hardy & Takahashi」と書かれているのに、これに全く気が付かなかったとは不注意千万でした。
 また、三枝先生が言われていた晩秋に発生する他の2種のケバエは、B. metaclavipes(和名なし)とB. gracilipalpus(和名なし)であることが分かりました。
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葉っぱ(シャクチリソバ)の端まで来たところ
次は飛んで逃げることと相成る
(2008/11/10)

 今日は雌の写真を紹介しました。次回はこの雄を登場させます。雌はかなりキツイ顔をしていて、精悍な感じがありますが、果たして雄の方はどうでしょうか。それは次回のお楽しみ。

追記:この原稿を書き終わった頃、丁度「一寸のハエにも五分の大和魂」に達磨氏(達磨大師の異名あり)から書き込みがありました。達磨大師は、栃木県立博物館に収蔵されている標本の中からB. flavihalter(ウスイロアシブトケバエ)の雌を6個体を探し出したところ、何れも一様に赤褐色をしていたそうです。「やはり標本は沢山集めなくてはいけませんね」と最後に書かれていましたが、この写真の様な中胸背に2黒条ある個体は少ないのかも知れません。

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